私の名前を出した瞬間、彼の母親の顔色が変わった。そして言った。「農家の娘が何言ってるの?…

私の名前を出した瞬間、彼の母親の顔色が変わった。そして言った。「農家の娘が何言ってるの?...

「どう見てもうちとは核が違うでしょう。身のほど知らずにも程があるわ。貧乏人は帰りなさい。」

結婚を意識した彼氏の家で、私は彼の両親からこれでもかと罵倒された。財産狙いの貧乏人と決めつけられて、私も黙ってはいられなかった。でも、この時の決断が後に他人の人生を左右することになるなんて、当時は思いもしなかった。

私の名前は坂本優香。農家に生まれた長女で、27歳の会社員だ。それなりに社員の数もいる職場だが、そのほとんどは現場作業の人員で、事務を担当しているのは私を含めても3人だけ。

おかげで人事から車両の管理まで何でも私の仕事だ。毎日帰宅後はクタクタだが、働き始めてから7年になるので仕事にはすっかり慣れている。どちらかと言えば延々と同じ作業を繰り返す仕事は集中力が続かないので、今は毎日色々なことができて楽しい。両親も私がこの仕事に就くと言った時はとても喜んでくれたし、日々やりがいを感じて働ける最高の仕事だ。

そんな私には、付き合って2年が経った公平という彼氏がいる。公平との出会いのきっかけは友人からの紹介だった。それまで私は交際経験がほとんどなく、恋人は欲しいが年が近い人が周りに少なくて、職場恋愛さえも考えられない。そんな私を見かねて、小学生からの親友が紹介してくれたのが公平だ。

公平の年齢は私の1つ上で、親友はマイペースなのに憎めない、人当たりのいい人だと評価していた。実際に接してみると少し不器用だけど優しくて、知り合ってから今までを思い返しても、怒ったところを見たことがないくらい温厚な人だった。家族との仲も良さそうで、たまに話を聞くのだが、彼の母はブランド好きで派手なタイプらしく、公平は飾らない私を好ましく思ってくれているらしい。自分では多少かっこつけているつもりなので、これには何とも複雑な気持ちになった。

ともあれ、私たちは目立った喧嘩もなく、順調に交際を重ねて、ついに先日、私の両親にも公平を紹介できた。両親は公平のことをとても気に入ってくれて、安心した。

そしていよいよ次は公平の両親に挨拶に行きたいと思っているものの、本当に多忙な人たちでなかなか都合が合わない。公平のお父さんは大手都市銀行に務め、彼から話を聞く限りでは、お母さんは昔からブランド物が好きで、見た目や家柄を気にするタイプらしい。

私は内心不安だったが、公平が「大丈夫、母さんも優香のことはきっと気に入るよ」と励ましてくれたので、覚悟を決めた。

そして迎えた挨拶の日。公平の実家は都心の高級住宅地にあり、玄関をくぐった瞬間から、空気が違うと感じた。広いリビングには高そうな家具が並び、テーブルには上品な料理が用意されていた。

公平のお父さんは穏やかな笑顔で「よく来てくれました」と迎えてくれたが、お母さんの視線は最初から冷たかった。

着席して挨拶を済ませ、少し話をしたところで、お母さんが突然口を開いた。

「で、あなたのご実家は何をされているの?」

「あ、農家です。米と野菜を育てています」

私は正直に答えた。すると、お母さんの表情が一瞬で固まった。

「あら、そう。それで、公平のことをどう思っているの?」

「とても優しくて、一緒にいて安心できる人です。結婚したいと思っています」

私がそう言うと、お母さんは冷たく笑った。

「ふん。結婚? おそらくあなたは、公平のお金目当てで近づいたんじゃないの?」

「そんなことありません! 私は公平の人柄に惹かれたんです」

「どう見てもうちとは核が違うでしょう。身のほど知らずにも程があるわ。貧乏人は帰りなさい」

その瞬間、私の頭の中は真っ白になった。公平は「母さん、そんな言い方ないだろ!」と怒ってくれたが、お母さんは聞く耳を持たなかった。

お父さんは苦笑しながら「まあまあ、お茶でも飲みなさい」となだめようとしたが、お母さんは止まらない。

「この家に釣り合う人間なんて、そうそういないのよ。農家の娘がうちの息子に近づくなんて、おこがましいわ」

私は涙が出そうになるのを堪えながら、カバンを持って立ち上がった。

「もう結構です。今日は帰ります」

公平は追いかけてきたが、私は振り返らずに家を出た。頭の中ではお母さんの言葉がぐるぐると回っていた。

それから数日間、公平から何度も電話やメッセージがあったが、私は出なかった。彼のことは好きだ。でも、あんな扱いを受けて、素直に連絡を取る気にはなれなかった。

一週間後、公平が私のアパートの前に立っていた。

「優香、話がしたい。ごめん、母のことは謝る。でも、愛してるのは本気だ」

私はしばらく黙った後、ドアを開けた。公平が部屋に入ってくると、二人で向き合って座った。

「公平、君のお母さんは私のことを絶対に認めないでしょう」

「僕が説得する。時間はかかるかもしれないけど、絶対に分かってもらう」

「もし、それでも無理だったら?」

公平は少し間を置いて言った。

「それでも、僕は君を選ぶ」

その言葉が嬉しかった反面、私はあることを考えていた。このまま何の対策もせずに進んでも、また同じことが起きるだろう。私は公平に言った。

「ちょっと、私からもあなたのお母さんに会いたい。今度は一人で」

公平は驚いた顔をしたが、「わかった」と頷いた。

そして再び、公平の実家に行った。今度は一人で。お母さんは私を見て、嫌な顔もせずにリビングに通してくれた。

「何の用かしら」

「お母さんの言葉を伺いたくて。どうしたら私を認めてくれますか?」

お母さんは少し考えて、笑った。

「認めるなんてことはないわ。ただ、あなたには一つだけ伝えておくことがある」

「何ですか?」

「公平のことは愛しているのね。なら、私の言うことを聞きなさい」

私は息をのんだ。正直、何かを言われる覚悟はしていた。

「何でしょうか」

「公平と別れて」

泣きそうになるのを堪えて、私は言った。

「それだけはできません」

お母さんは鋭い目で私を見た。

「そう。なら、もう会うこともないでしょう。帰りなさい」

私は立ち上がった。そして、振り返ることなく家を出た。

その後も公平とは連絡を取り合った。お母さんが反対していることは変わりなかったが、公平は動じなかった。

「僕たちのことは僕たちが決める。母にはいつか分かってもらえる」

私はそう言ってくれて安心もしたが、これはこのまま穏便に終わる問題ではないと感じていた。

そして、数ヶ月後。私は妊娠したことに気がついた。

公平に伝えると、彼はまず驚いた後、すぐに笑顔になった。

「本当に? 嬉しいよ。結婚しよう」

私たちは二人で決めた。相手の両親に反対されても、自分たちで新しい家族を作っていこうと。

公平の両親には報告したが、彼のお母さんは「関知しないわ」と言ったきり、連絡すらしてこない。お父さんはお祝いの言葉だけくれた。

私は自分の両親にだけは、きちんと報告した。母は涙を浮かべて「おめでとう」と言ってくれた。父も「大変なこともあるかもしれないが、お前が選んだ道なら応援する」と言ってくれた。

今はお腹の子のことを考えながら、公平と共に新しい生活を始めている。公平は相変わらず優しい。しかし、いつか義母と会わなければならない日が来るかもしれない。そう思うと、少し不安ではある。

でも、この程度のことで挫けるわけにはいかない。私は自分で選んだ道を歩んでいく。子供が生まれたら、一応義両親にも報告するつもりだが、実際に会わせるかどうかは今後の向こうの態度次第だと思っている。

間違っても義両親のようにはならないように、人を思いやれる優しい子供に育てるつもりだ。

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