夫が私の誕生日プレゼントを、中身も見ずにゴミ箱に投げ捨てた。 「これはエリート幹部様だぞ。役職に見合うものを持たないとな」 彼は自分の腕時計を見せつけて笑った。昇進してから、彼は私を「低学歴女」と見下すようになっていた。私は黙って耐えていたけど、その瞬間、心の何かが冷めきった。 でも、私はまだ彼に言っていないことがある。あのプレゼントの中身と、彼の自慢の時計に隠された真実を。…
夫が私の誕生日プレゼントをゴミ箱に投げ捨てた。中身も見ずに、紙袋ごと。 私の名前は酒井エリカ、34歳。9歳年上の夫・拓也と結婚して6年になる。お互い仕事に意欲的で、子どもは作らない選択をした。義両親も理解してくれて、私たちの生活は順調だった。 拓也とは私の会社の先輩の紹介で知り合った。有名大学を出ている彼は、地元の短大卒の私にも丁寧に接してくれた。対等な関係を築ける人だと思った。 家計は折半。誕生日にはお互いプレゼントを贈り合う。友人には理解されないけど、私にとっては理想の夫婦生活だった。 ある休日、洗濯機に洗濯物が残っているのに気づいた。洗濯は拓也の担当なのに、彼は本屋に出かけていた。最近仕事が忙しそうだし、疲れているのかなと思って、何も言わずに代わりに洗濯をした。 でも、それから拓也は自分の担当の家事を少しずつ放棄するようになった。最初は疲れているんだろうと思っていたけど、あまりにも多い。洗濯も食器洗いも何度もサボられて、ついに声をかけた。 「忘れてたよ」 明るく注意したつもりだった。でも拓也は私を見もせずに「ああ、そう」と他人事のように返した。そんなぶっきらぼうな返事は初めてで、何かあったのかと心配になった。 私は今こそ妻として支えるべき時だと思って、黙って家事をフォローし続けた。気づけば家事のほとんどが私の仕事になっていた。 拓也は帰りが遅く、一緒に食卓を囲むことも減った。部下を連れて飲みに行く頻度が増え、帰ってくるたびに「奢ってやった」と誇らしげに言う。お金の使いすぎが心配だった。 私はついに話し合おうと決意した。休みの日、ソファに寝そべる拓也に「真剣な話があるんだけど」と切り出した。 「今度にしてくれ」 鬱陶しそうに言われた。でも、最近はゆっくり話せる雰囲気じゃないし、次はいつになるかわからない。 「大切な話だから」 もう一度言うと、拓也は突然怒鳴った。 「しつこいんだよ。俺は休日に体を休めることもできないのか」 立ち上がって私の前に来ると、見下すように言った。 「エリートの俺に指図するな。高が短大卒の低学歴女のくせに」 今までそんなことを言われたことがなかった私は、驚きすぎて声も出なかった。ただ恐怖を感じて、「ごめん」と謝るしかなかった。 それからの拓也は人が変わったように横暴になった。「女のくせに」「大卒ですらないくせに生意気だ」と、言われのないことで怒鳴られる。両親は拓也を気に入っているし、友人にも相談できない。私は一人で悩みを抱え込んだ。 「お前が出来損ないだから言ってやってるんだろ」 時間が経つにつれて、私たちはただの同居人のようになった。愛情が消えていくのを感じながらも、どうにか打開したいと思っていた。 ある日、珍しく早く帰ってきた拓也が、自慢げに話し出した。同期の中で一番に部長への昇進が決まったらしい。 「昇進なんて決まっていたようなもんさ。どいつもこいつも使えない無能ばかりだからな」 自分はエリートだと同僚をこき下ろす。私は「部下を思いやれる部長になりたいね」と忠告した。 すると鼻で笑われた。「お前ごときに指図されるようなことではない」 それから拓也は家で「エリート幹部」と名乗るようになった。出世が嬉しいのはわかるけど、天狗になっているとしか思えなかった。 それでも私は関係の修復を諦めていなかった。結婚前から7年以上、お互いに尊敬も思いやりもあったのだ。何かきっかけがないかと考えているうちに、来月の誕生日があることを思い出した。 私はとっておきのプレゼントを用意して、拓也の誕生日を待った。 誕生日当日、私たちは二人とも出勤だった。私は定時で帰るために早く出勤し、拓也に「今晩お祝いをするから早く帰ってきて」とメモを残した。 でも拓也が帰ってきたのは23時を過ぎてから。部下に祝ってもらったと話す拓也に、怒りを抑えてプレゼントを渡した。 プレゼントはクラフト紙の丈夫な紙袋に入れてある。中身がすぐにわからないようにするためだ。 拓也は紙袋を受け取り、私の顔を見てニヤリと笑った。そして、まっすぐにゴミ箱に向かうと、中身も見ずに紙袋ごとプレゼントを投げ捨てた。 「ちょっと、何してるの!」 ショックと怒りで声をあげる私に、拓也は笑いながら自分の腕時計を見せつけた。 「これはエリート幹部様だぞ。役職に見合うものを持たないとな」 その時計は、少し前に拓也が自分で買ったものだった。自分への昇進祝いであり、誕生日プレゼントだと言う。 「お前の給料ごときで買えるような安物は必要ない」 そう言い捨てて、寝室に行ってしまった。 次の日の朝、拓也は早く起きてきた。私は最後の情けのつもりで、もう一度プレゼントの話をした。 「昨日のことだけど、本当に私からのプレゼントはいらないのね」 酔っていただけなら許そうと思っていた。でも、拓也の態度は変わらない。そればかりか、とんでもないことを言った。 「そのこと、お前もいらないけどな」 「せっかくの誕生日に夫が気に入るプレゼントも用意できないなんて、嫁失格だ」 心がすーっと冷えて、完全に愛情が消えた。私は以前から用意していた離婚届を鞄から取り出した。 離婚届を見た拓也は少し焦ったけど、すぐに調子を取り戻して「そんなもので脅しても無駄だぞ」と笑った。 「脅しじゃないから、すぐに離婚届にサインして」 私は真顔で迫った。 「気の利かない嫁はいらないのよね。それとも、エリート幹部様は一人じゃ生活できないの?」 わざと煽るように言うと、拓也は予想通り怒った。 「お前みたいな学歴もない女とは離婚で結構。次はもっと若くて頭のいい嫁をもらう」 そう言ってサインした。 私は単純な人で良かったと思いながら離婚届を受け取り、思い出したように話を振った。 「憧れの財布だったのに、残念ね」 何のことか分からず首をかしげる拓也に、私は詳しく説明した。 … Read more