夫の姉から突然電話がかかってきて、「あなたたちの離婚届、さっき役所に出してきたわ」と言われた。私はカップをテーブルに置き、「夫には確認したんですか?」と聞いた。すると彼女は「必要ないでしょ。弟に養われていたくせに偉そうにしていたわね」と笑った。あの瞬間、27年間の結婚生活が、私の知らないところで終わっていた。私はただ一言、「ありがとうございます。助かりました」と返して電話を切った。夫が帰宅し…
土曜日の午後、夫の姉から突然電話がかかってきた。 私は持っていたカップをテーブルに置いた。 「あなたたちの離婚届、さっき役所に出してきたわ」 「離婚届って、私と夫のですか?」 「他に誰がいるのよ。二人とも署名してあったから、私が提出してあげたの。月末まで待つ必要なんてないと思って」 夫は朝から出かけていた。仕事の打ち合わせがあると言っていたが、彼は1年半前に会社を辞めている。今も仕事は決まっていない。 「夫には確認したんですか?」 「必要ないでしょ。あの子は上に流されるから、姉の私が代わりに決断してあげたのよ」 夫の姉は得意げに続けた。 「弟に養われていたくせに、随分偉そうにしていたわね。もう他人なんだから、今すぐ出ていって」 私は一度息を整えた。 「本当に受理されたんですね」 「ええ、もう取り消せないわよ。今さら泣いても遅いから」 「ありがとうございます。助かりました」 電話の向こうが静かになった。 「え?」 「ちょうど荷物をまとめるところだったんです」 私は電話を切り、押入れからダンボールを取り出した。 午後7時を過ぎた頃、夫が帰宅した。玄関に積まれたダンボールを見るなり、靴も脱がずに声を荒げた。 「何をしているんだ?」 「出ていく準備」 「急に何を言ってる?」 「お姉さんから聞いていないの?」 私は夫の顔を見た。 「離婚届、今日受理されたそうよ」 夫の手からカバンが落ちた。 「受理された? お姉さんが役所へ持っていったって?」 夫は震える手でスマートフォンを取り出した。夫の姉が電話に出ると、夫は怒鳴った。 「姉貴? お前、何をした?」 電話の声は私にも聞こえた。 「何って、離婚届を出したのよ。あんたがなかなか出さないから、代わりにやってあげたの」 「今月末まで預かっていろと言っただろ」 「離婚するって言ってたじゃない。証人欄まで揃えて渡してきたのはあんたでしょ。数日早めただけじゃない。何を怒ってるのよ。これであの人のために使っていたお金をもっとこっちへ回せるでしょ」 夫は言葉を失った。私は黙って二人の会話を聞いていた。 夫が電話を切り、私へ向き直った。 「姉貴が勝手にやったんだ」 「分かってる」 「なら、取り消せないか確認しよう」 「私は離婚を望んでいるから、取り消す理由がない」 夫は積まれたダンボールを見回した。そこで初めて、テーブルに置かれた新しい部屋の鍵に気づいた。 「その鍵は何だ?」 「私がこれから住む部屋の鍵」 夫の顔色が変わった。 「いつ?」 「3ヶ月前」 私は岸本直美、56歳。夫の正とは結婚して27年になる。子供はいない。 私は結婚後も食品会社の事務職を続け、夫も長く会社員として働いていた。 暮らしが変わったのは1年半前だった。 平日の昼間、夫が青ざめた顔で帰宅した。 「会社をやめることになった」 業績悪化による人員整理だった。 私は夫を責めなかった。20年以上働いてきたのだから、少し休んでから次を探せばいいと思った。 「しばらくは私の給料で何とかするから、焦らなくていいよ」 … Read more