「は斗、どこにいるの?登場時間が迫ってるわよ。」
「言われた通りゲートの近くにいるよ。でも、あなたはどこ?」
「電話に出てちょうだい。ねえ、は斗。」
同じ頃、ま衣は母に電話していた。
「ま衣さん、は斗と連絡が取れないの。どこに行ったのかしら?」
「ああ、お母さん。は斗ならもうゲートを通っちゃったわよ。」
「え?じゃあ私も急がないと。あの子、何の冗談?」
「来るなんてやめてください。」
「え?何を言ってるの?今日は一緒に旅行するんじゃなかったの?ハワイに母さんが来たら、私、発狂しちゃうわ。」
「どういうこと?あなたはお金を出すだけよ。って言ったでしょ。350万もらったから、もう用は済んだわ。それに、もうゲートを通ったから追いかけられないわよ。」
「何を言ってるの?ま衣さん、一体……」
「そのままの意味よ。ああ、そうそう。クレジットカードも借りてるわ。これで旅行楽しめるわね。」
「カードって、まさかは斗に預けていたやつ?」
「そうよ。お母さん、セキュリティがガバガバすぎるのよ。私たちは私たちで楽しむから、お母さんは一人で帰ってください。」
10分後。
母は何度も電話をかけてきた。
「は斗、どうして電話に出ないの?」
やっと出た。
「何度も電話してこないでくれない?うっとうしいんだよ。」
「これはどういうことなの?」
「どうもこうもないよ。母さんだって分かってるだろ。」
「母さんはもう用済みなんだよ。早く説明してちょうだい。」
「めんどくさいなあ。けど、現実を見てもらわないといけないみたいだな。あのさ、母さん、もう金がないんだろ?羽振りも悪くなったし。この先、介護にお金を使うなんて無理だよ。」
「金がない?私、そんなこと言ってないわよ。」
「でも、羽振りは悪くなったじゃん。昔はもっと旅行とか、いろいろ連れてってくれたのにさ。」
「金がないなら、一緒にいる意味もないわ。」
「なんてこと?何かの間違いよね。は斗、あなたがそんなことするわけないでしょ。」
「今回の旅行も手配したんでしょ?私たち、お金持ってきてないのよ。カードだけだし。」
「身から出た錆よ。なんとかしてちょうだい。それにお金を持ってきてなくても、キャッシュカードがあればお金は引き出せるわ。やれることをしてから、泣きついてもらえないかしら。」
「同時刻ね。どうするのよ、は斗。ホテルもないし、カードも使えないし。」
「分かってるよ。俺だって困ってるんだよ。そんなの言われなくても分かってるってば。」
「取り立てがハワイにまで来てるの?LINEで毎日、いつ返すんだって怖いんだよ。それで帰れなくなってるのよ。」
「けれど、借金をしたのは自業自得よ。」
「私だって好きで借金したわけじゃないんだ。最初は少しだけのつもりで、気づいたら200万?それは言い訳よ。あなた、私から金を盗む前に、どうして相談しなかったの?」
「相談したって、母さんは何もしてくれなかっただろ。」
「そんなことないわ。あなたはいつも自分勝手なんだから。」
「俺はもう決めたんだ。母さんとは別れる。これからは自分の人生を生きる。」
「は斗、そんなこと許さないわよ。」
「許すも何も、もう遅いんだよ。俺はもう大人だ。自分のことは自分で決める。」
「あなたは私に育てられたんだ。その恩を忘れるの?」
「育てられた?確かに金は使ってもらったさ。でも、愛情はもらった覚えがないな。」
「そんな……は斗……」
「もういいだろ。俺はもう行く。母さんは一人で帰ってくれ。」
は斗はそう言って、電話を切った。
母はその場に立ち尽くし、涙をこぼした。
遠くで、ハワイの波の音が聞こえていた。



