「金さえもらえればこっちのもんじゃん」――婚約者の母親に初めて会った日、彼女は1200万円の式費用を出してくれる義母に向かって、そう言い放った。私はその言葉に驚き、思わず口を挟んだが、彼女は平然としていた。数日後、義母から届いたLINEのスクショを見て、私は凍りついた。そこには、私を「うざい」「更年期」と罵る、ののかの名前で送られたメッセージが残っていた。でも、ののかは「私じゃない」と言う。…

「金さえもらえればこっちのもんじゃん」――婚約者の母親に初めて会った日、彼女は1200万円の式費用を出してくれる義母に向かって、そう言い放った。私はその言葉に驚き、思わず口を挟んだが、彼女は平然としていた。数日後、義母から届いたLINEのスクショを見て、私は凍りついた。そこには、私を「うざい」「更年期」と罵る、ののかの名前で送られたメッセージが残っていた。でも、ののかは「私じゃない」と言う。...

「1200万円の式費用を出してくれるって、すごくない?おばさん、金持ちなんだね。」

ののかは、義母になる女性にそう言ってのけた。私はその言葉遣いに驚いて、思わず口を挟んだ。

「え、や、おばさんって……金持ってるね。」

「あ、いや、随分と言葉遣いが違うから驚いちゃって。」

「金さえもらえればこっちのもんじゃん。」

「そういう言い方はどうなのかしら。」

ののかは平然としていた。彼女は私のことを「おばさん」と呼び、ため口で話す。私は息子の同世代の子だと思って同じように接していたが、彼女はそれを「親子になるんだし、いいじゃん」と言い放った。

「じゃあなんでそっちはため口なわけ?」

「それは息子と同世代の子だし、同じように接していいかなと思って。」

「だったら私もママに対してはこんな喋り方だし、同じでよくね?」

そう言われると、確かに一理ある。しかし、彼女の次の言葉には驚かされた。

「てか、最初に言っとくけど、私、義母と今後関わる気ないんで。」

「はい。」

「私の友達が結構嫁姑で揉めててさ。愚痴聞いてるだけでうんざりなんだよね。」

「その2人にしかわからない問題があるんじゃないかしら。」

「友達は毎晩コンビニの弁当をチンして出してたら、ネチネチ言われたんだって。」

「それは息子さんの健康を気遣って、つい苦言を呈してしまったんじゃないかな。」

「へ、ちゃんと皿に移し替えてんだよ。」

「そういう問題ではないというか。」

「作るのが正義とか価値観古すぎるんだよね。たまにならいいと思うけど、私も友達見習って結婚したらそうしようと思うの。」

「え、2人分だったら材料買って作るよりコンビニの方が安上がりなんだって。」

「毎日やるつもり?」

「そうだよ。節約主婦の鏡でしょう。」

「それはやめてあげて。」

「なんで?」

「コンビニは便利で美味しいと思う。でも添加物もカロリーも多いわ。夫の健康管理も妻の仕事のうちだと思うの。」

「うわ、ここにもいた。」

「何が?」

「友達んとこの義母と同じこと言うじゃん。」

「間違ったことは言ってないわ。」

「正しいとかどうでもいい。うざいって意味。」

「あなたね。」

「怒ったの?心せま。」

「失礼するわ。気分が悪い。」

その日は、不機嫌なまま別れた。

翌日、息子のケ太が私に連絡をしてきた。

「母さん、ちょっといいかしら?」

「母さん、ちょうど俺、礼の連絡をしようと思ってたところなんだ。」

「うん。」

「ハワイ式の費用だよ。俺のために1200万も貯めててくれたなんて、感謝してもしきれない。」

「うん。」

「ののかと一緒に泣いたんだ。」

「え、そうなの?」

「素敵なお母さんねって言ってたよ。すごく尊敬してるし、見習いたいって。ののかの母さんが今度料理も教わりたいって言ってた。」

「それはいいんだけど、ののかさんってどんな方なの?」

「あっただろう。あの、まだよ。」

「母さんだって、感じのいい人ねって言ってたじゃん。」

「実はさっきLINEが来たんだけど、とても同じ人とは思えなくて。」

「どういうこと?」

「スクショ来るから見て欲しいの。」

「分かった。」

数分後、ケ太からスクショが送られてきた。そこには、ののかの名前で私に送られた、あの失礼なメッセージが写っていた。

「どういうことだよ。あんなに非常識な人間だったのか?」

「何が?」

「母さんとのLINEだよ。」

「何の話?」

「とぼけるのか?」

「本当にわからないよ。」

「うざいとか、更年期とか、散々言っただろ。」

「私が言うわけないでしょ。お母さんのことこんなに尊敬してるのに。そんな失礼な態度取るわけがない。」

「そう思ってたからショックなんだろう。」

「それ、私じゃないわ。」

「あ、だってもう寝てたから。」

「じゃあ誰なんだよ。」

「多分、うちのママだと思う。」

「なんでお母さんがそんなことするんだ?」

「毒親だって言ったじゃない。」

「そうだけど、娘の結婚の邪魔までするか。」

「邪魔するに決まってるじゃない。家から1人減るんだから。」

「でもおかしいだろ。スマホにロックはかけてないのか?」

「かけてるよ。でもパスコードは知られてる。」

「なんで?」

「プライバシーだろ?」

「あんな素敵なお母さんに育てられたケ太には分からないだろうね。」

「あ、うちのママは私の全てを把握していないと気が済まないの。私の悪口を言いふらしてるんだろうと言いながら、私のLINEやメールをこまめにチェックするのよ。」

「そこまでひどかったなんて。」

「私が海外を選んだのは、遠くなら親を呼ばなくて済むと思ったから。」

「あ、ごめん。俺が話しちゃった。」

「いいの?あなたがうちの母を誘う前に、私がちゃんと説明すべきだった。でも恥ずかしかったんだよ。こんな親の元で育ちましたって言えなかった。」

「俺ら結婚するんだよ。何でも言ってよ。」

「え、責めないの?」

「なんで。ののかのことが好きなんだから、お母さんは関係ないよ。」

「ケ太、ありがとう。」

数分後、私はケ太にスクショを見せた。

「お母様の仕業だなんて、本当かしら?」

「ののかのスマホから送られてきたんだから、疑いたくなる気持ちは分かるよ。でも、俺の婚約者のこと、信じてみてくれないかな。」

「確かに直接会った時のののかさんは素敵な女性だったわ。あのLINEと同じとはとても思えなかった。」

「そうだよ。母さんの目で見たものを信じてほしい。」

「分かった。」

「でも、式はどうするの?」

「それについてはちょっと考えがあるんだ。少し待っててほしい。」

「それは構わないけど。」

「あと、またののかを語ったLINEが来たら、適当に相手しておいてくれる?」

「いいけど、なかなかストレス溜まるのよね。遠慮なく言い返しちゃっていい?」

「だめ。我慢して、頼むから。」

「はいはい。」

数分後、私はののかのふりをして、自分のスマホから返信を送った。

「お母さん、この度は大変失礼なメッセージを送ってしまい、申し訳ありませんでした。」

「ケ太から事情は聞いたわ。私の方こそ、あなたを疑ってごめんなさい。」

「私は履歴を消されているので気づきませんでしたが、スクショを見せていただいて、背筋が凍りました。不快な思いをさせてしまいましたね。」

「確かに驚いたけど、あなたは大丈夫なの?」

「慣れていますから。ただ、結婚してケ太さんやお母さんに迷惑をかけるのは本意ではありません。私、この結婚を白紙にしたいと思っています。」

「え?」

「きっとこの先も、このようなことが起こります。」

「何を言ってるの?あなたは悪くないんでしょ?」

「好きな人を苦しめたくないんです。」

「じゃあ、また母親の言いなりになる人生を続けるの?それはどこかで抜け出さなきゃいけないんじゃない?それが今なんじゃないかしら。」

「分かってるんです。そうしたいのに、母を目の前にすると、イエスしか言えなくなるんです。」

「わかるわ。」

「いえ、失礼ですが、お母さんには分からないと思います。」

「分かるのよ。私の夫がそうだったから。」

「え、ケ太、覚えてないと思う。あの子が3歳の頃に逃げ出したからね。」

「そんなことが。」

「まあ、ひどい男だったわよ。全て自分が正しくて、思い通りにならないと物を投げるわ、大声出すわ、手を上げるわ。で、同じです。」

「残念だけど、そういう人間はいる。しかも本性を隠して近づいてくるわ。」

「そうですね。うちの母は、いいので。」

「そんな相手に対して効果的な方法、知ってる?」

「いえ、分かりません。」

「逃げる。」

「お母さん、今吹き出しちゃいました。」

「あら、面白かった?」

「はい。」

「怖いわよね。私もたくさん悩んだわ。でも、逃げて自分を守っていいのよ。」

「はい。」

「大丈夫。今のあなたには、ケ太も私もいる。」

「ありがとうございます。」

「あと少しの辛抱よ。止まない雨も、明けない夜もないの。」

「私、逃げてみます。」

「このLINEはちゃんと消すのよ。」

「お気遣いありがとうございます。」

数日後、私はケ太に言った。

「お母さん、悪いけど、ハワイ式、招待しないことにしたわ。」

「はい?」

「私はお金を出してるのよ。そんな話が通じるわけないでしょ。」

「結婚するのは私たち。誰を呼ぶかも私が決めるから。私は自分が行かないハワイ旅行のお金を出すの。1200万援助したからって、式に呼ぶとは言ってない。ハワイ式は私たちだけでやります。」

「ざわかった。そうしてくれて構わないわ。」

「やった。実はもう予約しちゃったんだけど、お母さんの予約だけ忘れたんだよね。」

「それは残念。」

「うちのママは血が繋がってるけど、あんたは親族じゃないんで。」

「確かにそうね。」

「なんだ、理解早いじゃん。ついでに、あなたとは縁を切るわ。」

「へ、願ったり叶ったりなんですけど。」

「だったらよかった。私はハワイに行かなくていいのね。」

「来るな。」

「そうしますね。」

「なんで敬語?」

「つい。意味はないわ。」

「あそ。義母っていうのは、金は出しても口を出さないのがいいらしいよ。」

「へえ、そうなんですね。」

「だからなんで敬語?」

「ついつい。ハワイのお土産いる?」

「いりません。」

「あ、じゃあいいわ。」

「失礼します。」

「なんで敬語だって言ってんの?」

「つい。じゃあこれで失礼するわね。ハワイ楽しんでくるね。」

1ヶ月後。

「お母さん、ごめん。ハワイ式の件だけど、先に前乗りしてもらっていいかな?」

「どうして一緒に行かないの?」

「ケ太の仕事の都合で式の日程を3日伸ばしたの。」

「迷惑な男ね。」

「私とケ太は仕事の都合がついてから行くから、先に行って観光でもしててくれる?」

「分かったわ。あっちのばあさんは来ないのよね。」

「うん。なぜか行かないって言われた。」

「金だけ出して、アホね。」

「そういう言い方しないで。」

「1200万も出す余裕があるんだもの。気を使う必要なんてないわよ。」

「そうかな。」

「あんた、ちゃんと旦那を締め付けないと。舐められたら終わりだからね。」

「分かったわ。」

「4泊でしょ。あっちで遊ぶ金はあるんでしょうね。」

「お母さんが現地についたら、デビットカードに入金する。」

「なんでよ。」

「お父さんの講座から1200万のお金を動かそうとしたら、調査が入ったらしいの。それで今ちょっと動かせないらしくて。」

「へえ。大金だから、そういうこともあるのかもね。」

「だから、私の給料が入ったタイミングで全額を送るよ。」

「ならいいわ。よろしくね。」

「ああ。」

「楽しみ。」

数日後、義母からLINEが来た。

「お母さん、ハワイ最高だよ。」

「そうですか。」

「こんな素敵なところに来れないなんて、かわいそう。」

「ご心配には及びません。毎年行ってるので。」

「は、旅行が趣味なんですよ。」

「あんたさ、なんで敬語なのって、ずっと聞いてるよね。」

「その前に、忘れてませんか?あなたご自身のスマホから、娘さんのふりしてLINE送ってますよ。」

「今まではなりすましてLINEしてたみたいですが、日本にいる娘のスマホを使うのは無理ですよね。」

「それはあれよ。」

「どれ?」

「娘の気持ちを代弁してあげただけ。」

「ああ、素敵なお母様でしょ。」

「あなたの茶番には早い段階から気づいていました。」

「はあ?」

「私が最初に抱いたののかさんの印象と、あなたが送ってきたLINEが随分違いすぎたし、本人に確認するのは当然ですよね。」

「だからって、私も、建てに数百人の社員を抱えてるわけじゃないんです。」

「何それ?どういうこと?社長なの?」

「夫を失った主婦が、どうやって1200万もの体金を出せると思ったんですか?」

「それは貯めていたって言うから。」

「確かに、子供が生まれてから30年、毎月貯金するとして、月3万円少しを積み立てれば届く額ですが、違います。あなたが最初に貯金してたって言ったのよ。」

「ポケットマネーですなんて、言いづらいじゃないですか。」

「あなた、何者なの?」

「夫の保険金を元手に投資で増やして、会社を起こしました。息子が10歳の頃ですから、20年前ですかね。」

「へえ。」

「私もハワイにはよく行くし、知り合いも多いので、いい式になればと思い協力しましたが、あなたのような毒親の分を負担するほど心が広くないんです。」

「誠に遺憾ですが、私は現にハワイにいるわよ。式もホテルも全てキャンセル済みなのに、そちらで何をされる予定ですか?」

「え、あら、チェックインまだしてないのに、マウント連絡してきたんですね。まずは自分の状況を確認してからにすればよかったのに。」

「ちょっと待ってよ。ホテルの予約がないって本当?」

「当然です。うちの娘を大事にしない人に施す義理はありませんので。」

「娘って、ののかのこと?」

「はい。あの子は私が産んだの。私のものなのよ。」

「そうやって我が子を私物化して、自分の都合のいいように扱ってきたから、ののかさんが苦しんできたんじゃないですか。」

「子が親を助けるのは当たり前のことでしょ。」

「私はそうは思いません。親子だろうが、友達だろうが、社員だろうが、人間社会というのはお互い様なんです。そこに敬意や思いやりを忘れてはならないんですよ。」

「うるさいわね。ちょっと金持ってるからって偉そうに。」

「はい。ちょっと持ってるので、その遺憾なく発揮して、ののかさんを守りたいと思っています。」

「いいからホテルを取りなさい。あと、ののかに伝えて、お金を早く入金しろって。」

「ごめんなさいね。私たち、今イタリアにいて、そんな暇はないんですよ。」

「え、今みんなでディナー中なんです。あ、そちらはまだ午前中かしら。」

「ちょっと待ちなさい。イタリアって何?」

「海外式ですけど。」

「私は、うちの娘が、部害者は呼びたくないと言ってるんです。」

「ふざけんな。私の娘だって言ってんでしょ。」

「そもそも、あなたのいないところで式をあげたいから海外にしたのに、うちのうっかり息子がつい行ってしまったせいで期待させてしまって、ごめんなさいねえ。」

「海外としか言ってないのに、勝手にハワイだなんだって盛り上がって、娘の意見すら聞かなかったそうですね。」

「そりゃ普通はハワイでしょう。」

「すみませんが、うちの娘はイタリアで式をあげるのが夢だったんです。実母なのに、そんなこともご存知なかった?」

「うるさいわね。」

「念願の憧れのハワイ、思う存分満喫してください。往復の旅費は私たちからの手切れ金ですから。遠慮なく。」

「待って。このままじゃ何もできないわ。」

数分後、ののかに電話がかかってきた。

「ののか、あんたイタリアにいるなんて嘘よね。ママを騙したりするわけないもんね。姑トメに脅されてるのかわいそうなののかちゃん。」

「お姑さんの言う通りよ。私はイタリアにいる。」

「なんでママも連れて行くべきでしょ。」

「わざとハワイに行ってもらった。」

「どうしてこんなことするの?」

「嫌いだから。」

「え?」

「ずっと限界だった。自分の思い通りにならないと切れて、手を上げて、お金まで奪われた。」

「それはあなたのためを思って。」

「そう言われると、私はなんだかんだ言っても母から愛されてるんだ。だから見捨ててはいけないと思い込まされてたよ。でも違った。私、逃げていいんだよ。」

「あのおばさんに何を吹き込まれたか知らないけど、親子はずっと親子なの。逃げるなんてありえないわ。」

「お母さんは、刃物を持った人が追いかけてきたらどうする?」

「そりゃ逃げるでしょ。」

「同じだよ。私にとっては危険人物なの。逃げなきゃ自分の身が危ないんだよ。」

「意味の分からないことを言うんじゃない。」

「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさとホテルを予約して、早く金を送りなさい。」

「お断りします。」

「はあ。」

「ママは2万円で3万しか持ってないのよ。」

「それは大変だね。ハワイは物価も高いから、気をつけて。」

「ちょっと待ってよ。本気で言ってるの?ママ、英語なんて全く喋れないのよ。」

「得意の圧でどうにかなるんじゃない?」

「無理なこと言わないでよ。欲しいものリストだって書いてきたのよ。これじゃ何も使えないわ。」

「結婚を祝いに来たんじゃなかったの?本当に自分のことしか考えてないんだね。うんざりする。」

「違う。買い物はついでに決まってるじゃない。あなたの幸せだけを願ってるのは本当よ。」

「だったら、今私はイタリアで大好きな家族や友人に囲まれて幸せよ。お願いだから、2度と邪魔しないと誓って。」

「それは無理よ。あなたと一緒にいたいもの。相手のお母様とも仲良くしたいわ。」

「社長だと分かったからだよね。」

「違う。」

「私のふりをしてLINEするなんて、恥ずかしいことするんじゃないわよ。あんたのせいで今までどれだけ恥をかいたと思ってんの?」

「はあ。私が何した?」

「子供の頃、あんたの彼氏が来たら、どんなに寒くても外に出された。子供は外で遊ぶものでしょ。」

「靴先の破れた靴を履いていたら、見かねた近所の人がお下がりをくれた。ラッキーじゃない。」

「私がどんなに惨めだったか、分からないでしょうね。」

「考え方が大げさすぎるのよ。」

「大人になっても地獄は続いたよ。毎月25日の昼休みに会社に押しかけてきたよね。そしてボーナスが出る夏と冬だけ優しくなった。」

「おらん。ママは夏と冬が好きだから。」

「家事は全て私にさせておいて、服にシミができたとか、味が薄いと言っては怒鳴った?」

「それはママも色々ストレスが溜まっててさ。」

「知らねえよ、あんたのストレスなんか。」

「はあ。親に向かってなんて口聞いてんだよ。」

「うるさい。親と思ってないから、こんな口聞いてんだよ。」

「なんて子なの?」

「あんたの子だよ。」

「私は逃げる。せい、堂々とあんたから離れる。」

「1番簡単で難しかったけど、お姑さんが背中を押してくれたから。」

「結婚なんかやめなさい。許さない。」

「あんたの許可いらない。じゃあ、1人ぼっちの極貧ハワイツアー楽しんで。」

5日後、義母から電話がかかってきた。

「おい、ババー。」

「あなただってババーでしょ?」

「私がハワイでどんな目に会ったか分かってるの?3万円なんて一瞬で消えたわよ。残りの3日間、空港のベンチで寝たのよ。生きた心地がしなかったわ。」

「あら、無事に帰国できたようで何よりです。」

「あんたたちのせいで、心も体もボロボロよ。慰謝料として1000万払いなさい。」

「お断りします。航空券代は差し上げたはずですし、それ以上をかける義理はございません。」

「ふざけないで。あんたの会社を調べたわよ。派遣会社の社長なんですってね。」

「だったら何なんですか?」

「大口を叩かないと、会社をめちゃくちゃにしてやる。」

「どうぞご自由に。ただし、法に触れるようなことはお控えなさい。」

「うるさい。後悔させてやるから。」

数時間後、会社の社員から連絡が入った。

「何をするかと思えば、小学生のずらですか?」

「はあ?」

「会社のビルの壁に『詐欺師の会社』って書きましたね。」

「私じゃないわ。」

「そうですね。犯人は男だったようですが、漢字も書けない人間を雇ったんですか?私は無関係よ。」

「受付の花瓶も叩き割れました。」

「恨みを持つ人間は私だけじゃないんでしょ。」

「大事な社員が怪我をしたんです。絶対に許しませんので。」

「私に怒るのはお門違いでしょ。」

「いえ、犯人はあなたです。」

「なんでそう言いきれるの?」

「実行犯がペラペラと喋ったからですが。」

「はあ。あなたに5万もらって雇われただけだ。口が裂けても名前を出すなと言われたが、喋るって。」

「あのアホ。」

「加えて、ののかさんからも被害届を出すそうです。」

「なんで娘がそんなことするのよ。」

「昔からずっと、最近まで手をあげていましたね。」

「してない。」

「大人になっても八つ当たりされて、傷跡を見た時は涙が出たわ。」

「違う。あの子が転んだだけなの。」

「いい加減にしなさい。もう諦めて、あなたは捨てられたの?」

「だめ。そんなの認めない。」

「娘の幸せを願うのは無理でしょうね。あなたにできることは、大人しく捕まって、塀の向こう側で迷惑をかけずに息をすることだけよ。」

「ひどい。私を何だと思ってんのよ。」

「親。」

「話には聞いていたけど、実在するなんてねえ。そしてこんなに見苦しい存在だなんて、思いもしなかったわ。」

「あんた、ちょっと言いすぎよ。」

「どうして親になってはいけない人間が、子供を産んでしまうのかしら。どうして小さくて無垢な存在を大事にできないの?」

「何言ってんの?」

「どう考えても理解ができないの。お話するのは最後になるから、教えてくれない?」

「知らないわよ。できたから産んだ。それだけ。」

「初めて手に抱いた時、可愛くなかったの?」

「そりゃ可愛いとは思ったわ。でも、手も金もかかる。こんなに面倒だとは思わなかったの。」

「やっぱりそうなのね。」

「何が?」

「そんな当たり前のことも理解できない能だってこと。」

「馬鹿にすんじゃないわよ。」

「本当に知能が低くて、思慮が浅くて、低劣なのね。だったら、到底私たち人間の言葉が届くわけないか。ああ、なんか腑に落ちました。お話してくれてありがとうございます。」

「な、何なの?」

「失礼します。」

「待って。何?意味がわからないんだけど。」

翌日、義母が逮捕された。

「そう。会社の方にまでご迷惑をおかけしてすみません。怪我した社員さんは無事でしょうか?」

「傷跡も残らないそうよ。」

「そうですか。本当に何と言っていいか。」

「でも、お母さんが送ってくれた、母とのLINEのスクショを見てスカッとしました。最後の方、まるで人間と話の通じない動物が会話してるみたいで、想像したら笑えちゃって。」

「まだ動物の方がちゃんと子育てするわよ。」

「そうですね。」

「イタリア、素敵だったわね。また行きましょう。」

「いいですね。」

「披露宴は日本でするのよね。」

「はい。3ヶ月後くらいになります。」

「楽しみだわ。」

「私、お母さんに手紙読んでもいいですか?」

「え、私?」

「はい。人生の先人として、母として、心から尊敬しています。」

「嬉しいけど、照れるわね。」

「2人の娘ですが、末永くよろしくお願いします。」

「たっぷり甘やかしちゃおうっと。」

その後、義母は逮捕・起訴された。会社への損害は500万円に及び、彼女に支払う能力などあるはずもなく、結局実刑判決を受け、収監された。余罪として、ののかさんへの長年の暴力や金銭の搾取も全て明るみに出た。好き放題やってきた女が、厳しい刑務所の中でどんな風に過ごしているのか想像もつかないが、苦しんでいて欲しいと思う。面会も差し入れも手紙のやり取りもない。孤独な毎日を受け入れるしかないだろう。自業自得。その言葉がこれほど似合う結末も、そうないのではないだろうか。

出所した時のことを考え、万全の体制でののかさんを守れるよう、うちの会社で秘書として働いてもらっている。彼女はもう、スマホの通知に怯えることはない。私たちは新しい家族として、これからも一歩ずつ歩んでいこうと思う。

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