「離婚届、書いといたから。明日までに出しとけよ」…

「離婚届、書いといたから。明日までに出しとけよ」...

「離婚届、書いといたから。明日までに出しとけよ」

急にどうしたの?

「俺の連れ子に無関心な女。もう限界なんだわ」

私は小ずちゃんを実の娘のように大切に育ててきたつもりよ。

「つもりだろ?血も繋がってない他人のくせに、母親面すんなよ。出て行け」

そんな、2年間家族としてやってきたじゃない。

「笑わせんな。俺と小ずにとっては、ただの便利な家政婦だったんだよ」

こ平、本気で言ってるの?

「出張から戻るまでに荷物まとめて出ていけ。ああ、それと小ずの養育費として月10万払えよ」

養育費?私が?

「当たり前だろ。今まで小ずを育てさせてやった。授業料みたいなもんだ」

そんなの法的に払う義務はないわ。養子縁組だってしてないんだから。

「は、法が変わったの知らねえのか?同居の実績があれば、血縁がなくても養育費を支払う義務が生じるんだよ」

え?そんな法律聞いたことないけど。

「無知なバカだな。俺が嘘つくメリットあんのか?払わないなら職場に乗り込んで、この女は子供を捨てた毒親だって言いふらしてやるからな」

やめて。会社に迷惑はかけたくない。

「なら月10万きっちり振り込め。小ずが悲しむ姿見たくねえだろ」

分かったわ。小ずちゃんのためなら。

「話が早くて助かるぜ。じゃあな」

でもさすがに10万は無理。とても払えないけど、私の生活が苦しいわ。

「安いところに引っ越して節約すれば無理じゃないだろう。親は子供のために我慢するもんだぞ」

そうだけど、10万円はあんまりだわ。

「借金して一括で払ったらどうだ?20歳までの金額480万円。切りよく500万円でもいいぞ。そうすれば月々の返済の方が安く済むじゃないか」

私の収入でそんな大金、審査が通るわけないでしょ。

そもそも、私との結婚前はこ平と小ずちゃんと2人で暮らしていたのよね。元嫁が浮気して出てったからな。

「それが何だ?」

こ平の稼ぎだけでも十分暮らしていけたってことでしょ?どうしてそんなにお金が必要なの?

「いちいち言う必要あるか?元は俺のお金なんだから、知る権利はあるはずよ」

これから大学とかでお金かかるだろうが。

奨学金制度を使うという手もあるわ。

「そんなの利用したら、俺の稼ぎだけじゃ通えないって親戚の恥を晒すようなもんだぞ」

そんなことないと思うけど。

「とにかく必要って言ったら必要なんだよ。分かったら小ずの養育費ちゃんと払えよ。小ずが悲しむぞ」

だから10万円は無理だってば。

「そこまで言うなら5万円でどうだ?半額にしやったぞ」

うん。それでも厳しいわね。

「お前なあ。わがまま言うなよ。それでも母親か。じゃあ職場に行くしかなさそうだな。楽しみにしてろ」

は?どうしてそうなるの?来て何するのよ?

「みんなの目の前で払わせてやる。屈辱だろ」

みんなにも迷惑だからやめてちょうだい。

「いいか。出張から戻ったら職場に行ってやるからな」

絶対にやめて。

「わかった」

3日後、私は離婚届を出しておいた。念のため言っておくけど、絶対に職場には来ないでね。

5分後、小ずちゃんに電話をかけた。

「小ずちゃん、今大丈夫かしら?」

「はい、ちょうど学校終わりなので大丈夫ですよ。有里沙さんこそ大丈夫なんですか?今頃は仕事じゃ」

「用事があって有給を取ったのよ。気にしないで。それよりオーストラリアの生活はどう?」

「英語はまだまだだけど、暮らしはとっても快適です。ホストファミリーの犬が可愛くって、お座りとお手の英語だけはうまくなりました」

笑っちゃった。楽しそうで何よりだわ。

「あのね、今日連絡したのは報告することがあって」

「報告?何でしょうか?」

「実はお父さんと離婚したの。有給も離婚届を出すため」

「え、本当に?」

「うん。だからお別れの挨拶をしたくて。今までありがとう。不器用な母親だったけど、小ずちゃんと家族になれて本当に良かったと思ってるわ。どうか元気でね」

「本当にさようならなんですか?」

「ええ、残念ながら」

「10歳の頃から6年間、ありがとうございました」

母親らしいこと何もできなかったね。ごめん。

「お母さんって呼べなくてごめんなさい」

そんなこと気にしなくていいのよ。

「一緒に洋服買いに行ったの、楽しかったです」

私もよ。

「じゃあ有里沙さんもお元気で」

小ずちゃんも留学頑張ってね。

1週間後、会社のロビーで警備員に止められているこ平を見つけた。

「警備員を呼ぶなんて卑怯だぞ」

朝からロビーで養育費払えって騒いでる男がいたら、そりゃ警備員を呼ぶでしょ。まさか本当に来るなんて。

「お前がさっさと出てきてくれればよかったんだよ」

何をするか分からないのに、行けるわけないじゃない。後で会社に説明するの大変だったんだからね。

「お前のせいだろ。ちゃんと払うまで何度でも言ってやるからな」

分かったから、もう2度と来ないで。せめて3万円に減額してください。お願い。

「ああ?少な。まあいいや。小ずのことを思ってるのは本当みたいだし、お前のその気持ちに免じて3万円で許してやるよ。今月から払えよ」

分かったから。

「1ヶ月でも滞納したら、すぐに弁護士に相談するからな」

1ヶ月後、こ平に電話をかけた。

「こ平、嘘ついたわね」

「何のこと?仕事終わりで疲れてるんだけど、揉め事は嫌なんだけど」

養育費のことよ。法が変わったなんて、よくもそんな嘘。

「誰が言ってんだよ。騙されてるぞ」

もう騙されないわ。弁護士に相談したの。養子縁組してないなら養育費を払う義務はないって。

「余計なこと」

それとも言われたわ。無理やり支払わされた分は返還請求できるって。

「たった3万円ぽっちの金を返せるってか」

いいえ、返さなくていいわ。その代わり来月からは払いません。

「小ずがどうなってもいいのか」

え、どういう意味?

「小ずが飢えたり、学校に通えなくなってもいいのか?」

こ平って稼ぎはそんなに悪くなかったわよね。営業で契約を取ったらインセンティブも入るし。成績がいいからボーナスも増えるって。

「そうだが」

なら生活に困るのはおかしくない?

「あれだよ。今オーストラリアに留学に行ってるだろ。滞在費やら授業料やらなんやらで金がかかるんだよ」

だって交換留学だから国が負担してくれるはずよ。小ずちゃんが通ってる高校だと航空券が支給だったかな。あとは現地で使うお小遣いとか、それくらいよ。

「なんでそんなことが分かるんだよ」

だって手続き関係は全部私がやってたもの。

「でも育ちの高校生が1人いるんだから、金がかかるのは事実だ。小ずはどっちかって言うと倹約家だけど、お前の前では気を使ってただけ。そんなにお金遣い荒いわけでもなさそうだし」

「ああ、見えて結構使ってるぞ。本当に何も知らないんだな。母親だったくせに」

じゃあ何に困ってるの?

「ああ、もうしつけえな。は、もう何でもねえよ。とにかく小ずを思うなら養育費払えよ」

翌日、小ずちゃんに電話をかけた。

「小ずちゃん、久しぶり。まだ起きてるかな?」

「有里沙さん、起きてますよ」

どうしたんですか?

「ちょっと小ずちゃんに聞きたいことがあって」

何でしょうか?

「何か困ってることある?」

えっと、困ってるとはどういう?

「なんかお父さんがお金に困ってるみたいだったから」

お父さんが?何もないならいいの。ごめんなさいね。もう離婚したのにこんな差し出がましいこと。

「あの、お父さんに言わないって約束してくれますか?」

え?うん。約束するよ。何?

「私の留学が終わったら、有里沙さんと暮らしたいです」

私と?本当に?気持ちは嬉しいけど、お父さんはどう思うだろう?

「いいんです。私、もうお父さんと暮らしたくない」

何があったの?

「実は小学校の頃からずっと、いい成績を取らないと毎日怒鳴られていたんです」

え、私が家に来てからはそんな光景見たことないけど。

「なぜか有里沙さんがいると怒らないんですが、少し外出すると『この恥晒し』とか『低能』とか」

何それ?自分の娘にそんなこと言うなんて。

「いい大学に入って将来は稼いで仕送りをしろって」

信じられない。

「あと放課後はバイトを義務付けられてて」

義務ってどういうこと?放課後は部活だったんじゃ。

「バイト代は全部生活費として渡すんです。『俺1人養うだけでも金がかかるんだぞ』って言われてるから」

子供からお金を巻き上げるなんて信じられない。どうしてもっと早く言わなかったの?

「お父さんに固く口止めされてたし。何より私とお父さんの問題だから、巻き込みたくなくて」

何言ってるの?私たち家族でしょ?こんなの許せないわ。

「私のためにそこまで怒ってくれるんですか?」

当たり前でしょ?小ずちゃん。

「だから留学を先生に進められて飛びつきました。お父さんから離れられるならどこでも良かったんです」

そうだったのね。

「進学に有利だと知って許してくれましたけど、戻るのが怖い」

留学が終わったら真っ先にうちにいらっしゃい。私だったら絶対にそんなことしない。約束するわ。

「信じます。だって高校進学の時も海外留学の時も、いつだって真剣に相談に乗ってくれたのは有里沙さんでした」

親として当然の責務だわ。

「でもお父さんは絶対にそんなことしてくれなかったです。有里沙さんが本当の母親だったらいいのにって思ってた」

じゃあ本当の親子になる?

「え?」

小ずちゃんが望むなら、私の養子になってくれる?そしたら私たちは正式に親子を名乗れるわ。どう?

「なりたい。私、有里沙さんと本当の親子になりたいです」

じゃあ、小ずちゃんが帰ってくるのを楽しみに待ってるわ。残りの留学生活楽しんでね。

「はい」

3ヶ月後、こ平から電話がかかってきた。

「離婚してから1円も振り込まれてないぞ」

これから夕飯です。次の日にしてください。

「俺だって飯時だけど、お前のために時間割いてんな。いいから小ずの養育費払えよ」

払う義務がないわね。

「じゃあ払わないなら給料差し押さえるからな」

そもそもあなたにはもらう権利がないのよ。

「あ、小ずは俺の娘だぞ。権利しかないだろ」

小ずちゃんは私と暮らしてますが。

「あ、なんで?どういうことだよ」

そのままの意味だけど。

「だってあいつは留学に行ってたじゃないか」

自分の娘の帰国日も知らなかったの?もうとっくに戻ってきて、今は私の家で暮らしてるわよ。

「は、これは連れ去りだ。通報されたくなければ早く俺の家に帰るように伝えとけ」

帰ってバイトでもさせるつもり?小ずちゃんから聞いたわよ。こ平が小ずちゃんにしてきたこと。

「俺は何をしたって」

とぼけないで。いい成績を取らないと暴言を吐いたり、無理やりバイトさせてお金を巻き上げたり。そんなの親のすることじゃないわ。

「小ずがそう言ってたのか。あいつは嘘つきだからな」

嘘じゃないことくらい、会って目を見たら分かるわ。

「エスパーかよ」

親なのに子供の気持ちも分からないなんて。こ平は親失格ね。

「お前に言われたくないんだが」

今後小ずちゃんは私が面倒を見ます。

「小ずを返せ」

本人の意思よ。だから連れ去りじゃないわ。

「嘘つけ。警察呼ぶからな」

そしたらお前は逮捕だ。

「ざみろ」

また迷惑かける気?願いだから警察は呼ばないで。

「やましいことがあるから呼ばれたくないんだろ」

そうじゃない。普通にご近所迷惑だからやめてって言ってるの。

「そこまで嫌がるのはますます怪しい。今から警察呼ぶわ」

じゃあな。

「待って」

2時間後、こ平から連絡があった。

「逮捕は無理って聞かされたぞ。どういうことだよ」

当たり前でしょ。だって私たち正式な親子になるから。

「いやいや、血縁繋がってねえだろ」

だから法的に親子になれるようにするのよ。

「いよいよ頭おかしくなったのか」

いたって正常よ。小ずちゃんの帰国後すぐに弁護士に頼んで養子縁組の手続きを進めてるの。

「何勝手なことしてるんだよ。実の父親である俺の許可がいるはずだ」

そうなのよ。それがネックなのよね。

「俺は許可しないぞ」

だったら警察に駆け込むしかないわね。あなたが小ずちゃんにしてきたことを警察に訴えて、それから家庭裁判所に申し立てをする。

「小ずはそんなこと望んでないはずだ。俺の小ずを返せ」

今時の子は賢いわね。あなたの暴言が全て録音されてるわ。

「嘘だろ」

激しい物に当たって「痛い」「やめて」と泣き叫ぶ声もね。

「それは…」

奥様が亡くなって男手1つで育てるのは本当に大変だったと思う。でもこれは間違ってる。

「俺のたった1人の娘なんだぞ」

その娘が嫌だと言ってるの。他人の私を頼ってまでね。親なら小ずちゃんの考えを尊重して幸せを願うべきよ。

「もう2度とあんなことはしない。だから小ずを返してくれ」

どうしてそんなに小ずちゃんを返して欲しいのよ。

「実は新しい彼女ができたんだ。俺の部下だけどな。その彼女、子供ができない体でさ」

つまりそれが小ずちゃんとどう関わってくるの?

「連れ子がいることを伝えたら、私がその子の母親になる。一緒に暮らしたいって言ってくれたんだ。だから小ずを返せ」

あまりにも身勝手だわ。でも彼女は元保育士だから、お前なんかより子供の扱いはうまいぞ。

あの小ずちゃんもう高校生よ。保育士に可愛がられる年じゃないわ。帰って失礼よ。

「いいから小ずに伝えろよ。こっちに帰ってこいって」

父親なんだから自分の口で伝えたらどう?そうした方が小ずちゃんの本音も分かるでしょ?

「それもそうだな。仕方ない。そうするわ」

ごすんが。

翌日、小ずちゃんがこ平に会ったらしい。

「小ず、帰国して有里沙のところにいるんだってな」

今更何?今友達とカラオケ中なんだ。邪魔しないで。

「カラオケ?バイトにも行かず何やってるんだよ」

バイトなんかやめた。高校生なんだから働かなくていいって有里沙さんが。

「何やってる?そんなことしたら生活できなくなるぞ」

大丈夫。こっちでは不自由ない暮らしできてるから。

「とか言って、本当は辛い目に合ってるんじゃないか」

むしろお父さんといた頃より幸せだよ。

「そう言わされてるんだろう」

うん。これは私の意思。有里沙さんは無理なバイトと勉強をさせない。私のペースでやらせてくれるし、優しく見守ってくれる。

「俺だって無理させたつもりはないんだが」

どこがだよ。ふざけんな。

「父親に向かってなんて口聞くんだ」

お父さんはそれだけのことをしたんだよ。

「俺はお前の将来を思ってだな」

嘘つき。何も助けてくれなかったじゃない。有里沙さんは私が本当に困った時助けてくれた。

「そんなの俺だって、言ってくれたら力になったのに」

言ったよ。でもお父さん右から左へ受け流して、全然話聞いてなかったじゃない。

「そうだっけ?」

お父さんは会社では優秀かもしれないけど、父親としては最低だったよ。

「誰がここまで育ててやったと思ってるんだ?」

クソ親父のテンプレみたいなこと言うんだね。もういい。好きにしろ。

「言っておくが、有里沙は俺ほど金があるわけじゃないからな。ずっと養子縁組して大学。いや、高校にも通えなくなる」

それだけど、有里沙さん私のために転職してくれたのよ。

「は?」

だからもうお父さんと暮らす意味はないんだ。

「俺は血の繋がった実の親だぞ」

血だけね。でも有里沙さんとは心で繋がってる。私にとっての親は有里沙さん1人だけだよ。

「待ってくれ、小ず」

さようなら。

翌日、会社にリリと名乗る女性が現れた。

「有里沙さんですか?初めまして。私、こ平の彼女のリリって言います」

ああ、元保育士の。この時間は仕事終わりですよね。話があります。

えっと、なんで私の連絡先を知ってるんですか?

「こ平から連絡先を教えてもらったんです」

人の個人情報を勝手に教えるなんて。

「まあまあ、そんなことはどうでもいいじゃないですか」

いや、どうでも良くないです。

「そんな細かい性格だから離婚されるんですよ」

あなたには関係ないでしょ。何のようですか?

「小ずちゃんを渡してください」

は?こ平が言うならまだ分かりますが、なんであなたがそれを言うんですか?

「だって有里沙さんが小ずちゃんの面倒を見るせいで、こ平にお金が入らないじゃないですか。そのせいで欲しいものを買ってもらえないんですよ」

あ、どういうこと?

「だから小ずちゃんがいたら、児童手当1万でしょ」

児童手当のこと?

「有里沙さんからの教育費3万でしょう」

養育費ね。

「小ずちゃんのバイト代8万でしょ。それが何?」

そしたら全部で13万。ちょっと贅沢するにはちょうどいい金額だと思いません?

まさか小ずちゃんに今までバイトをやらせてたのは、全部あなたのため?

「全部私のためですよ」

なるほど。そういうことでしたか。

「分かってくれました。じゃあ小ずちゃんください」

絶対に渡しません。あなたじゃ小ずちゃんを幸せにできないわ。

「何よ。そういう有里沙さんはこ平を幸せにできなかったじゃないですか」

あなたには関係ないでしょ。

「関係ありますよ。だって私たち、離婚する前からの付き合いですもん」

それは浮気してたってこと?

「そう。有里沙さんたら全然気づかないんだもん。こ平と『鈍いね』って言ってました」

そうね。鈍かったかも。だから色々教えてくれる?

「え?なんであんたなんかに教えなきゃいけないの?」

こう見えて私、恋愛話好きなのよ。あなたが素敵な結婚ライフを送れるよう、アドバイスしたいの。

「分かってる。何から教えたらいい?」

あなたとこ平はどんなきっかけで付き合ったの?

「私がこ平の部署に転職したのがきっかけかな。一目惚れしましたって告白されちゃった」

その時あなたは既婚者だと知ってたの?

「知ってましたよ。だから最初は断ったんだけど、奥さんがいるのにハイブランドのバッグやアクセサリー、高級レストランにも連れてってくれたの」

ええ、ちなみにどこのお店?

「予約の取れないイタリアンだよ。いいでしょう」

まあ、羨ましい。

「だからお礼に彼女になってあげたの」

なるほどね。それじゃあこ平は相当喜んだでしょう。

「かなりね。付き合い立ては色々と盛り上がるわよね」

分かります。付き合った初日にホテル行っちゃった。

ええ、早速ラブラブね。その時の写真ないの?

「ありますよ。ほら」

これは事業。幸せそうね。

「最中のもあるよ」

え、見たい、見たい。

「これ恥ずかしいからあんま見ないで」

ありがとう。まさか自分から証拠をくれるなんて助かるわ。

「は?」

既婚者だと知っていながら付き合った事実。不貞行為があったことを示す写真と動画。これを証拠として慰謝料300万円請求するわね。

「え、私にアドバイスするんじゃなかったの?」

そうよ。これがアドバイスよ。人生のね。

「意味わかんないんだけど」

人のものに手を出したらこうなるってことよ。慰謝料は勉強だと思って払うことね。

「待って待って。じゃあ今すぐ別れるから。それでいいでしょ」

別れたところで浮気した事実は消えないわ。元保育士なら子供にこう教えたことはない?人のものを取ってはいけません。悪いことしたらごめんなさいなさいって。

「それは…」

せめて最後くらいけじめはつけましょう。

「ごめんなさい。謝るからせめて慰謝料の金額は少なめにしてください」

じゃあ299万円でいいわよ。

「全然減ってない」

今後は弁護士を通してやり取りしてください。では。

「待ってよ」

翌日、こ平から電話がかかってきた。

「聞いたぞ。リリに慰謝料請求するんだってな」

仕事終わりで疲れてるの。面倒な連絡が来たわね。

「俺だって仕事終わりで疲れてる。こんな話したかねえよ。慰謝料請求なんか絶対にするなよ」

なぜ?こっちは浮気されて精神的苦痛を受けてるのよ。

「リリとは離婚後に出会った彼女。慰謝料請求される覚えはない」

あら、リリさんが色々と認めてくれたし、証拠の写真も頂いたから慰謝料請求はできるのよ。

「リリがあの低能女か」

だからこ平にも慰謝料請求するわね。300万円。

「分かった。そこまで言うならリリと別れる」

別れる別れないはそちらの勝手だけど。

「で、お前と再婚して全て元通りにする。そしたら慰謝料を支払わなくていいだろう」

あ、リリさんといい、あなたといい、お似合いだわ。

「は、あの女と一緒にするなよ」

頭の悪さがそっくりよ。

「今のは許してやる。その代わり小ずだけは返せ」

あの、なんでそんなに小ずちゃんにこだわるの?

「お前には分からないだろうが。妻が亡くなったあの日、俺は小ずを守るって誓ったんだ。悪い男に引っかからないようにバイト漬けにさせ、将来に困らないように勉強させてきた」

よくもまあそんな出任せが言えたもんね。小ずちゃんにまつわるお金は全てあの女に流れてたのよね。

「あいつ、そんなことまで言ったのか」

聞いてもないのにベラベラと教えてくれたわ。

「大人は色々金がかかるんだよ」

普通の大人はそれを子供に使うのよ。お金としてしか見れないなら、絶対に渡すことはできない。

「じゃあ俺の身の回りの世話は誰がやるんだよ」

自分でやりなさいよ。いい大人なんだから。

「じゃあ小ずを派遣してくれ」

何言ってんの?

「洗濯料理で1日1000円払うと伝えろ」

小学生のお小遣いじゃないのよ。小ずちゃんを何だと思ってるの?

「子供は親のために孝行するものだろう」

それは子供に愛情を注いだ親がしてもらうもの。こ平みたいな自分勝手な親に恩返しする人間はいないわ。

「頼むよ。小ずを失ったら俺は1人ぼっちだ。どうやって生きていけばいいんだ?」

そんなの決まってるわ。1人で生きていってください。

「嫌だよ。また3人で暮らそう」

どうしても父親を続けたいのなら、小ずちゃんの養育費を払ってください。それがあなたに残された父親としての責務よ。

「分かった。払うから。だから小ずに合わせてくれ」

小ずが拒否してる以上、もう会うことはないわ。じゃあね、他人さん。

2年後、小ずちゃんが大学に合格した。

「有里沙さん、大学受かった」

本当?よかった。今夜はお祝いね。

「有里沙さんのおかげだよ。塾の費用も本当にありがとう。迷惑かけてごめん」

なんでそんな他人みたいなことを言うの?

「え?」

娘のために当然のことをしただけよ。

「うん」

転職して収入は倍になったし、お父さんも心を入れ替えて養育費を払ってくれてる。あなたは何も心配せず大学生活を楽しみなさい。

「有里沙さん、私すごく幸せだよ。でも私がいることで有里沙さんの再婚を邪魔してるなら」

ちょっとちょっと。私は好きな人ができたら小ずに紹介するから、見極めてねっていつも言ってるよね。

「でもずっと立っても紹介してくれないじゃん」

彼氏ができない私をディスったわね。

「あ、ごめん」

今夜は約束通りすき焼きしましょう。そして週末は好きなだけ洋服買ってあげる。

「やった。ありがとう。本当におめでとう」

ありがとう。

その後、こ平とリリは当初慰謝料の支払いに応じなかった。裁判を起こしましたが、それでも対応しませんでした。結果、私が訴訟したので給与を差し押さえた段階で慌てて連絡してきましたが、時すでに遅し。不思議と噂は出回ってしまうもので、「あの2人、浮気の慰謝料の支払いが滞って給料を差し押さえられてるらしいわよ」と噂の的になっているそうです。居心地が悪くなった2人は転勤を申し出ましたが、評価は下がりさらに格下げされたとのこと。リリは「人のものを取る女」として男性からは警戒され、女性同僚から陰湿な嫌がらせを受けているとか。こ平は移動先でまた新たな彼女を見つけたようですが、相手は既婚者でした。当然旦那さんにバレてしまい、さらに慰謝料の支払いを抱えることに。さすがに問題視した会社はこ平を諭旨解雇としました。必ず転職先を突き止めて、また給料差し押さえます。

私はと言うと、この間小ずとお買い物を楽しみました。可愛いお洋服や流行りのコスメを買ってあげたり、一緒にスイーツを食べました。「お母さん」と呼ばれることにまだ慣れないけど、そのくすぐったさが心地よかったりもするのです。これからも小ずにとって誇らしい母親でいられるよう頑張ります。

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