「おい、今どこにいる?家だって?はあ、何やってんだよ。花嫁のお前が式場に来ないなんてありえないだろ。両親も親族も待ってるんだぞ。今すぐ来い。来ないなら結婚取りやめるぞ」
誠からの電話は、いきなり怒鳴り声から始まった。でも、結婚式は来週のはずだった。
「誠、式は来週だよ。お母さんと決めたんじゃなかった?」
「は?俺はそんなこと全然知らないぞ。キャンセルしてレストランに変更するって話はお前が言い出したんだろ?」
「違うよ。誠のお母さんが『誠は式に乗り気じゃないから、いいレストランを予約した』って言ったんだよ」
「母さんがそんなこと言うわけない。俺の前で嘘つくなよ」
電話の向こうで誠がさらに声を荒げる。私が何か言うたびに、誠は「母さんは俺たちの味方だ」と繰り返す。デートの店も、SNS映えするスポットも、全部お母さんのチョイスだった。
「式場の打ち合わせもお母さんに相談したの?」
「そりゃそうだろ。母さんは俺たちより人生経験が豊富なんだ。相談するのは当たり前だ」
「つまり、誠はお母さんがいないと何も決められないんだね」
「そんなことあるかよ!」
「もっと自分で考えて行動しないと、また今回みたいな勘違いが起こるよ」
誠は逆上して「お前最低だ」と叫んだ。結局、食事会になってしまったレストランの料金を払えと要求してくる。60万円だと言う。私が予約したわけでもないのに。
「私は何も聞かされてないので、払う義務はありません。じゃあ食事会楽しんでね」
電話を切って5分後、今度は義母から着信があった。
「誠から聞いたわよ。お金を払わないんですって?」
「はい、払いません。私は何も聞かされてませんから」
「おかしいわね。ちゃんと電話で伝えたつもりだったけど」
「お母さんと電話したことなんて一度もありませんよ」
「あら、そうだったかしら?」
嘘だった。ぜんぶ嘘だった。レストランを予約したのは義母。式をキャンセルしたのも義母。
「私はね、世間のためだけのお見合い結婚だったの。あなたは恋愛結婚でドレスを着て式を挙げられるんだから、生意気だと思ってるのよ」
ああ、そういうことか。この人は最初から、私が幸せになるのが許せなかったんだ。
「今に現実になるわよ」
義母はそう言い残して電話を切った。翌日、式場に行ってみると、スタッフから信じられない事実を告げられた。
「誠様からキャンセルを受け付けておりますが」
誠が、私に何も言わずに式をキャンセルしていた。いや、これは本当に誠の意志なのか?それとも、また義母の指示なのか?私は確かめるために、誠の実家へと車を走らせた。あの二人に、どうしても直接聞きたいことがあった。



