「今夜は早く帰れる?」そう聞いた瞬間、夫の顔が一瞬で曇った。
「また小作りの話かよ。いい加減にしてくれ。」
12年間、ずっとこの繰り返し。私だって諦めたくない。
「お願い。協力して。どうしても子供が欲しいの。」
「タイミングがあんだろう。少しは待てよ。」
結婚して12年、私も36歳になった。時間がないのは分かっている。
「焦ってる女って一番無理。発情した猫みたいで気持ち悪いんだよ。」
その言葉が胸に突き刺さった。でも夫はそれ以上話を聞こうとしなかった。
「今日は帰らないから。」
そう言って玄関を出ていこうとする夫を、私は引き留めることすらできなかった。
翌日、夫の姉から聞かされた。
「毎月排卵日が近づくと弟に迫ってるそうじゃない?」
姉は笑いながら言った。
「うちに3人いるから1人あげようか?」
私は必死に耐えた。
「そうやって余裕がないから子供ができないんじゃない?」
家族の中でも、私はただの「子供を欲しがる哀れな女」だった。
数日後、夫が突然怒鳴り込んできた。
「不妊治療が辛いってSNSに投稿してんだろ?」
確かに匿名アカウントで同じ悩みを持つ人と話していた。個人情報は出していなかった。
でも、写真に映り込んだオレンジのリビングでバレたらしい。
「旦那が協力的じゃないとか、よく書けたな。」
「事実でしょ。年に数回気が向いた時だけ小作りして、病院にも行ってくれないじゃない。」
「俺のせいだって言いたいのか?」
話は平行線のまま。
「あなたに子供を作る気がないなら、さっさと離婚して再婚した方が良かった。」
そう言った瞬間、夫の目が冷たく変わった。
しばらく沈黙が続いた後、夫が口を開いた。
「そっちがその気なら、もういい。」
私は何が起こるか分からず、ただ固まっていた。



