結婚式の日。ゆ介は式場の片隅で、母親を呼んだ覚えもないのに、彼女が来ているのを見て苛立っていた。
「お袋、なんで来たんだよ。呼んでないだろ」
母親は動じず、静かに言った。
「ゆ介、おめでとう。本当は渡したいものがあってね。お父さんからの手紙よ」
ゆ介の顔が歪む。
「親父の手紙?俺を捨てて出て行ったくせに。今さら何だよ」
「お父さんは病気で余命宣告されて、私たちに迷惑をかけないように出て行ったのよ。最後は自宅療養の末に孤独で死んだわ。私が特殊清掃を始めたのも、それがきっかけだったの」
「ふん。自分の子供の世話もできないで、何が親だ。勝手に消えて勝手に死んだだけだろ。迷惑なんだよ」
母親は悲しそうに目を伏せた。
「ゆ介、今日はせめて式の雰囲気を壊さないで。隅っこで黙っていてくれないか」
「わかったよ、好きにすれば」
その日の夜、ゆ介は親族室で母親と顔を合わせた。
「本当に来なければよかったわ。実の息子の答えがこれなんだもの」
ゆ介は冷たく言い放った。
「だから呼んでないのに来るからだよ。一応、義理は果たしただろ。ありがたく思えよ」
「そうね、ありがとう」
母親が渡そうとした手紙を、ゆ介は受け取ることもなくビリビリに破り捨てた。
「そんなゴミ、いらないよ」
親族室は静まり返った。他の親戚たちは何も言わず、ただ見つめていた。
「これが答えですよ」と、ゆ介は言った。
「私たち全員に無視されて、手紙も破られて、さぞ気分がいいでしょうね」
「本当に、来なければよかったわ」
「そうですか。じゃあ、もう帰ってください」
母親は何も言わず、破られた手紙の切れ端を拾い集めて、そっと立ち去った。
ゆ介はその背中を見送りながら、胸の奥に何かが引っかかるのを感じたが、振り払うように酒を煽った。
式はその後も滞りなく進み、ゆ介は笑顔を絶やさなかった。しかし、心のどこかで、捨てたはずの手紙の内容が頭の中をぐるぐると回っていた。



