「司法試験、合格したよ」
その一言で、電話の向こうの母さんが泣き出した。
「すごいわね!本当にすごい!あんたならやれると思ってたわ!」
「まあ、普通だよ。真面目にやっただけさ」
「そんなことないわよ!司法試験に合格するなんて、どれだけ大変なことか…」
昔から成績は良かったけど、大学を出てからはふらふらしていた。そんな自分を見て、母さんは心配していた。でも、37歳になって、さすがに本気でやらなきゃいけないと思ったんだ。
「あなたがロースクールに行きたいって言い出した時は驚いたけど、本当に良かったわね」
「ああ。これからは弁護士か検事になって、うはうはの生活を送ってやるよ」
「そんな簡単なことじゃないわよ。最近は弁護士でも大変な人もいるって聞くし」
「俺がそんなことになるわけないだろ。俺は頭がいいんだから」
「確かにそうね。あなたらしいわ」
そう言って母さんが笑う。
「それじゃあ、今日はお父さんと三人でお祝いしましょう」
「いや、いいよ。そんなこと言わないで」
「どうして?」
「お祝いはするけど、父さんと二人でしたいんだ」
「どういうこと?なんでそんなことを言うの?」
ずっと前から言いたかったこと。
「俺はあんたのこと、うっとうしいと思ってたんだ」
「うっとうしい?」
「やけに俺に関わろうとしてくるけど、あんたは別に俺の親でもなんでもないだろ」
「確かに、あなたとは血が繋がってるわけじゃないわね。あなたは夫の連れ子だから」
「でも、20年以上も一緒にいるのよ。なのに、どうして今更そんなことを言うの?仲良くやってきたじゃない」
「仲良くしてたふりをしてただけだよ。俺はあんたが急に家に来たことを、受け入れてなかったんだ」
「でも、私はあなたのことを本当の息子だと思ってたわ。だからずっと支えてきたし…」
「何言ってるんだ?月30万の仕送りくらいで母親面すんな」
「お金だけじゃなくて、あなたが困らないように、私なりにできることをやってきただけよ」
「正直、金のことはありがたかったよ。だが、それだけだ」
「そんな…」
「とにかく、あんたとはおさらばだ。もう俺に関わってくるな」
「ちょっと待ってよ。さすがにそれはありえないわ」
「うるさい。この連絡先はブロックするから」
通話を切ると、俺はそのまま番号をブロックした。
5分後、父から電話がかかってきた。
「どうかしたのか?母さんの様子が変なんだが」
「あの…急に縁を切るみたいなことを言い出して」
「そうか。司法試験に合格したら、お前は何か言ったのか?」
「本人がそう言ってるなら、受け入れるしかないだろう」
「ちょっと待ってよ。間に入って、関係を修復してくれないの?」
「…それはできない」
父はしばらく黙っていたが、やがて深いため息をついた。
「わかった。お前の決めたことなら、尊重するよ」
それで、話は終わった。
俺は新しい生活を始める。弁護士として、自由になって、もう誰にも縛られない。
母さんに感謝してる?
…さあな。



