「おい、明日同僚の誕生日パーティーをするから、準備しろよ。」
夫・優一が、何の前触れもなくそう言ってきた。
「え?明日?急にそんなこと言われても…」
「何が急だよ。お前、専業主婦だろ。それくらいやって当然だ。どうせ家にいて暇なんだし。今夜中に全部やれとは言ってない。それくらいやれよ。」
「でも、準備って…」
「それをどうにかするのが専業主婦の役目だろ。誰の金で生活してると思ってるんだ?俺の稼ぎで食わせてもらってるくせに文句言うな。これも仕事の一環だ。協力するのが当たり前だろ。本当、専業主婦は社会性がないな。これを機に少しは学べよ。」
私は何も言い返せなかった。
翌日、私は朝から買い出しに行き、料理を作り、部屋を飾り付けた。パーティー中も、私はキッチンとリビングを往復するだけで、ゆっくり食事を取る暇すらなかった。
夜、優一が同僚たちを送り届けて帰ってきた。
「みんな料理を褒めてたぞ。見た目もいいし、味も最高だって。お前、やればできるじゃん。」
「…そう、良かった。」
「なんだよ、褒めてやってるのに。」
「朝から準備して疲れてるの。まだ片付けも残ってるし。」
深夜、私は一人で後片付けをしていた。食器を洗い、ゴミをまとめ、床を拭く。
すると、寝室から優一が不機嫌そうに出てきた。
「なあ、物音がうるせえんだけど。こんな遅くまで何やってんだよ。」
「ごめん、起こしちゃった?やっと片付けが終わったの。」
「はあ?なんでこんな時間までやってんだよ。」
「準備に追われて、普段の家事ができてなかったの。洗濯も掃除も…」
「そんなの当たり前にやるもんだろ。マルチタスクもできねえのかよ。人様の安眠を妨害しやがって。」
「なんでそんなこと言うのよ。こっちは頑張ったのに。」
「もう無理。こんなのやりたくない。私一人に準備を全部押し付けて、あなたは食事をするだけ。こんなのおかしいでしょ?私、食事すら取れてないんだよ。」
「俺だって忙しい時は昼飯食えない時もある。一日ぐらいでグチグチ言うな。甘えてる。大体、遅いのはお前がちんたらしてるからだろ。」
「…とにかく、もうこんなことはしないから。」
一ヶ月後。
「おい、来週、上司の歓迎会をするから、準備しろよ。」
「え、また?ちょっと待ってよ。それなら居酒屋でやればいいじゃない。」
「はあ?何、口答えするつもりかよ。」
「そうじゃなくて、そういうのは普通、店でやるものでしょ。」
「前のパーティーが成功したから、みんな気に入ってたんだよ。お前の料理は美味いし、外だと高くつくだろ。この前の宴会の食材のレシート、ちゃんと見せてくれたじゃん。居酒屋でやるとあれの倍はかかる。もうみんなから参加費ももらってるから、さっさと準備しろよ。」
「そんな、また勝手に…」
「今度は事前に言っただろ。なんで協力できねえんだよ。俺の株を上げるのも、嫁の勤めだろ。それくらいやれ。」
歓迎会当日。
「おい、何やってんだ?酒が切れてるじゃねえか。せっかくみんないい気分だったのに。」
「ごめん、買い足してくる。」
「使えねえ嫁だな。ちゃんとしろよ。これが仕事のミスだったら、信用に関わるんだぞ。」
「そんなこと言われても…」
「ああ、本当、いいよな、専業主婦って。どうせお前は失敗しても失うものがないから、今回も手抜きしてたんだろ。」
「そんなつもりじゃ…」
「実際、酒も足りてねえだろ。言い訳してんじゃねえぞ。」
「ごめんなさい。」
数時間後、私は安い酒を買って帰ってきた。
「マジで本当に使えねえな。お前が買ってきた酒も安いのばっかりだし。」
「それは予算が…」
「はあ?まだ言い訳すんのかよ。マジありえねえ。こんな女とはもう離婚だ。」
「へえ…何言ってるの?」
「もう離婚届けを書いたから、お前も書いて出せよ。今すぐ家を出ていけ。」
「そんな…でも、実家もないし…」
「ああ、そうだよな。お前、行く当てもないし、金もないから、ホームレス確定じゃん。でも、役立たずはいらねえんだよ。」
「ごめんなさい。次はちゃんとします。だから、離婚だけはやめてください。」
「これに懲りたら、二度と逆らうんじゃねえぞ。」
数日後、私は友人・さえに打ち明けた。
「さえ、聞いて。優一に離婚届を突きつけられた。」
「は?離婚?ついに?」
「うん。でも、出せなかった。」
「なんで?あんなクズ男、捨てなよ。」
「無理だよ。経済的に自立できてないから。収入なんてないし、家を追い出されても行くところもない。離婚したら生活できないの。」
「そりゃ確かに、離婚するなら経済的に自立しないといけないけど…就活、うまくいってないんだよね。」
「うん。優一の帰宅時間に合わせて家にいないといけないから、その条件で雇ってくれるところはなかなかなくて。」
「あいつ、絶対あんたに仕事させたくないんだよ。嫁に金を稼がれたら、でかい顔できないし。最悪、逃げられるって分かってるから。」
「でも、なんとか仕事を探さないと。」
「それなら、もういっそ私の会社に来ない?人手不足どころか、起業したばかりだけど、絶対彩佳を雇うし、帰る時間も融通するから。」
「でも、そんな毎回無理な頼みを…」
「決断はすぐじゃなくていい。でも、何かあったら連絡してね。」
「うん。ありがとう。」
三ヶ月後。
「来週、同僚の送別会をするから、準備しろよ。」
「また?いい加減にして。私のことを飯使いか何かだと思ってるの?」
「はあ?嫁が宴会の準備をするのは当然だろ。お前、家にいるんだし、文句言うな。」
「でも…」
「文句あんのか?今すぐホームレスにしてやってもいいんだぞ。女のホームレスって、きっと悲惨だろうな。」
「…それがあなたのやり方なのね。」
私はさえに連絡した。
「さえ、やっぱり無理。もう限界。優一がまた宴会を企画してる。」
「マジでこれで何度目よ。てか、会社のやつらも会社のやつらよ。ちょっとは気を使って外でやるとかしないの?」
「優一が自分から主催して、手伝いもしてるってことになってるの。ほとんど手伝ってないくせに。もうあんたをいいように使ってるだけじゃん。あんた、離婚した方がいいよ。」
「さえ、前の話、受けていい?就職の件。」
「本当?むしろいいの?」
「うん。経済的に自立して、優一から離れたい。」
「ごめんね。こんな時まで甘えて。」
「何言ってるのよ。頼ってくれてありがとう。よし、一緒に頑張ろうね。怪しまれないように手配するから、任せて。」
一年後。
「さえ、会社も軌道に乗ったね。おめでとう。」
「何言ってるのよ。あんたのおかげだよ。」
「いやあ、私の目に狂いはなかった。仕事の覚えも早いし、マルチタスクで仕事も一斉処理できて、何でもやるのが早いんだもん。」
「宴会準備をしてたおかげかな。効率重視になっちゃって。」
「いやはや、おかげで助かったよ。」
「そんなことないわ。感謝してるのは私の方。収入も安定したし、もう優一に依存しなくていいから。」
「で、あの離婚届、出すの?」
「うん。もう我慢しなくていいし、向こうだって離婚を迫ってきたんだもの。」
「よかった。」
「でも、優一には言わない。復讐したいの。」
「復讐?」
「優一に恥をかかせたくて。ほら、あいつ、自分がいい顔したいから、よく宴会を開いてるじゃない。宴会で恥をかかせてから、離婚したことを教えてやるの。」
「じゃあ、次の宴会まで仮面夫婦を続けるってこと?」
「うん。このまま黙って別れるのは嫌。私が苦しんだ気持ちを少しは理解してほしいの。どれだけ時間がかかっても、復讐してやる。あと二、三回は時間がかかるだろうから、家を出るのはもう少し後になるかな。」
「なるほどね。いいじゃん。恥をかかせてやんな。応援してるよ。」
数ヶ月後。
「来週、同僚の結婚祝いをするから、準備しとけよ。」
「分かった。手配しとく。」
「さすがに何回もやってると手際はいいな。今回の予算は前の半分だから、うまくやりくりしろよ。」
「分かったわ。」
翌日、私は家を出た。
「おい、お前、どこにいるんだ?帰ったら部屋が真っ暗だし。」
「外出してないわ。もうそこには戻らないから。」
「は?家を出るって言ったのか?もう決めたわ。」
「ちょっと待てよ。別に、お前、金ないだろ。まさか俺の金で勝手に家を借りたのか?」
「お金は借りたの。しばらくあなたと離れたい。」
「なんだよそれ。ふざけんなよ。」
翌日、優一からメッセージが来た。
「いつになったら帰ってくるんだ?別に、どうせすぐ帰ってくるんだろ。そのうち金が尽きるだろうし。まあ、謝ったら、借りた金くらい立て替えてやるよ。だから、いい加減帰ってこいって。」
一週間後。
「おい、今どこだ?家に上司と同僚が来てるんだけど、今すぐ宴会の準備をしろ。何やってんだよ。早く来い。」
「なんで私が?」
「は?嫁なら文句言わずやれ。使えねえ嫁だな。大体、準備がお前の仕事だろ。別居してようが、仕事はちゃんとやれよ。」
「嫁の仕事?離婚したし、他人だよ。」
「あ?離婚?何言ってんだ?」
「一年前に離婚届を出したけど。」
「ちょ、ちょっと待てよ。離婚届?覚えてない。昔、突きつけたじゃないか。」
「お前、本当に出したのか?あの離婚届を。」
「そうよ。なんで今更って感じだけど。お前、離婚なんてできるわけないだろ。専業主婦で金ないんだし。」
「いや、あるけど。仕事もお金も。」
「は?私、今、会社の副社長だよ。」
「副社長?」
「そう。友人が立ち上げた会社に入って、軌道に乗るまで支えていたの。」
「いつの間に?いや、お前、俺が家にいる時は、ずっと家事してたじゃないか。」
「あなたにバレないように、友人が配慮してくれていたの。でも、もうその必要もない。今、バリバリ働いてるわ。収入もあなたより上だよ。」
「嘘だろ?」
「本当だよ。だから、もうあなたに依存しなくていいの。だから、離婚する。もうその家には帰らないから。」
「ちょっと待てって。なら、宴会どうすんだよ。準備してないのか?」
「してあるよ。」
「は?」
「宴会の準備はしておいた。食材を大量に買い込んで、冷蔵庫に入れといた。」
「本当か?」
「うん。でも、調理はしてない。あなたが自分でやって。」
「お前、冗談だろ。大人数の料理なんて作ったことねえよ。」
「知らないよ。今まで全部私がやってたから、あなた何もできないんでしょ。でも、もう他人だから、自分でやって。」
同時刻、優一は上司に電話していた。
「藤本さん、申し訳ありません。今日の宴会、中止にさせてください。」
「え、中止?」
「はい。すみません。」
「中止は大丈夫ですが、何かありましたか?」
「妻が準備してなくて。」
「奥さんが?ちょっと待ってください。任せていたって言ってますけど、手伝いをしていたら、段取りは分かってるはずですよね。今までも宴会をしていましたが…まさか、優一さん、奥さんに準備を全部投げてたんですか?その奥様は、何か家政婦か何かですか?」
「いえ、そういうわけでは…」
「なるほど。分かりました。いつも素敵な宴会をしてくれましたが、あなた、言ってましたよね。自分が主催でやってて、奥様には手伝ってもらってるって。なのに、中止の理由が奥様の準備不足?矛盾してますよ。あの発言は嘘ですか?」
「その、えっとですね…」
「呆れた。何やってるんですか?奥さんばかりに負担を敷いていたなんて。あれだけの宴会を一人で?さぞ大変だったでしょうに。申し訳ないわ、本当に。あなたも準備を一緒にしていると言っていたから、ご夫婦で支え合っているのだと思ってましたが、どうやら違うようですね。」
「それは誤解です。」
「誤解ですか?私は何度か、家だと準備も大変だから、店でやりましょうと提案していましたよね。それをあなたは、こういう家での宴会が自分も妻も好きで、特に妻は普段専業主婦だから、こういう機会に皆さんと話せるのが嬉しいと言ってたと言っていましたね。今までの発言と矛盾してますよ。」
「ちょっとした行き違いがあっただけなんです。」
「では、奥様はどちらに?お話を聞きたいのですが。」
「今は外出してて…」
「では、後日、きちんと謝罪に伺います。」
「それは困ります。」
「なぜ?」
「その家にいなくて…」
「ああ、そういうことですか。それなら仕方ないですね。」
一時間後、優一が私に電話をかけてきた。
「お前のせいで宴会がダメになったじゃねえか。恥をかいただろ。どうしてくれんだよ。」
「知らないよ。」
「知らないじゃねえだろ。お前が準備してないから、こうなったんだぞ。」
「あのね、今まで私一人で全部の準備をしてたの。メニュー考案、買い物、調理、装飾、片付け、全部。朝早くから準備して、パーティー中も食事すら取れなかった。深夜まで片付けしてたけど、あなたは何も手伝わなかったわよね。それどころか、怒鳴りつけてさ。今までどれだけ大変だったか分かる?外面だけ良くて、実際は私に丸投げして、それで『できませんでした』って、かっこ悪いわね。そんなあなたが恥をかくのは当然でしょ。」
「お前、好き勝手に言いたいこと言いやがって。」
「言いたいこと、まだあるわよ。」
「え?」
「あなたさ、会社の評価、低いでしょ。」
「はあ?何言ってんだよ。」
「毎回、いい顔をしておかしいと思ったのよ。宴会をしないと、あなたの信頼って維持できないんでしょ。あんな高圧的な態度だもの。仕事でもうまくいってるとは思えない。」
「なんだと?俺は会社で評価されてるんだぞ。」
「本当に?なら、どうして宴会にこだわってたの?職場で信頼回復しにくいって分かってたからじゃない?」
「そ、そんなんじゃねえよ。」
「そうなら、別にそこまで怒らなくてよくない?仕事で挽回すればいいだけじゃない。」
「くそっ。何なんだよ。いきなりこんなことしやがって。」
「いきなり?そうよね。あなたから見れば、一年も前に離婚届が出されてたなんて知らなかったもの。突然のことのように思えるでしょうね。」
「そうだよ。なんで今更?大体、一年も隠してたっておかしいだろ。」
「家を出ていかなかったのは、荷造りや経済DVの証拠を集めていたからよ。」
「経済DV?」
「そう。『誰の金で生活してるんだ?俺の稼ぎで生活してるくせに』って、何度も言ってたよね。それ、全部録音してるわ。証拠として。」
「録音?」
「ええ、証拠になるもの。慰謝料を請求するには必要だし。」
「慰謝料?」
「なんでだよ。」
「モラハラと経済DVの慰謝料よ。それが原因で離婚するんだから。」
「そんなのおかしいだろ。なんで俺が迷惑をかけられてるのに、金まで払わないといけないんだ。」
「あとは弁護士を通して話しましょう。もうあなたに何も望まないから。」
一週間後、優一は上司に呼び出されていた。
「川村さん、最近、ミスが多いですね。大丈夫ですか?」
「すみません。実は、妻が慰謝料を請求してきて…」
「奥さんが?」
「はい。妻が勝手に離婚して、慰謝料を請求してきて、正直、仕事に集中できなくて…」
「なるほど。離婚されたのですね。」
「勝手に離婚届を出されたんですよ。それで金まで請求されて、意味が分からない。」
「私も同じ経験をしたんです。」
「あ、本当ですか?」
「それは大変でしたね。本当、突然で、自分が悪いのかと思いました。大体、お金だって、俺が稼いで食わせてやってるのに、権利だけ一丁前に主張してきて、困っていたんですよ。でも、夫婦だし、その辺りは注意すればいいと思ってたのに、被害者ぶって…」
「何か勘違いしているようですが、私はあなたの奥様の立場と同じだと言ったんですよ。」
「え?」
「私も元夫に全てを押し付けられました。家事も育児も全部私に丸投げ。でも、元夫は外ではいい夫を演じてた。あなたと同じですね。」
「お、同じ…」
「だから、私は思うんです。嫁も大事にできずに使い捨てにする人間に、仕事ができるわけがないって。」
「で、でも、藤本さん、妻が勝手に離婚したんですよ。結局、俺がいないとダメなくせに、勝手なことして。」
「面白いですね。私の元夫も全く同じことを言ってましたよ。けど、仕事でそういう人を信用できない。川村さん、ちょうど今、人事評価の時期です。あなたの評価をきちんと見直さないといけませんね。」
「あ、いやいや、プライベートのことですよ。」
「今、私はあなたの上司として話を伺っています。そして、あなたはその状態で奥様を下げる言葉を平気で発言した。これで社会性を疑われるのは仕方ないのでは?」
「それはその…」
「家庭を大事にできない人間が、仕事を大事にできるとは思えません。しかし、これはあくまで私の主観。評価は平等に行われるものです。ですので、周りから話を伺うことにします。」
同時刻、優一は私に電話をかけてきた。
「お前のせいで、上司の評価が下がった。どうしてくれるんだ。」
「私のせい?あなたが私にモラハラしてたからでしょ。」
「俺はそんなことしてないし。会社のことなんて分かるかよ。」
「分かるわよ。だって、あなたの同僚や上司にはよく会ってたもの。宴会で人から話を聞いてたし。あ、実は会社の評価がとても低かったらしいわよ。うまくいっていると思っていたのはあなただけ。同僚の人には色々心配されたしね。」
「嘘だろ?」
「本当だよ。仕事が中途半端な時があるって愚痴をこぼしてる人や、外面だけ良くて面倒事を押し付けられたとか、みんな言ってたよ。」
「ちょっと待てよ。なんだよそれ。直接話そう。きっと何か誤解がある。」
「嫌だよ。もう他人だし。もう話すことは何もないわ。」
数日後、優一が私の会社に押しかけてきた。
「彩佳の元旦那様ですね。うちの会社に突撃しないでもらえませんか?迷惑です。」
「あなたは…」
「社長の高橋です。連絡先を伺いました。会社に来たのは彩佳の件ですね。本人から聞いてますよ。」
「何を聞いたか知りませんけど、夫婦のことなので、部外者は黙っててください。俺は妻に会いに来たんです。」
「すみません、もう離婚されてますよね。」
「それは誤解があってですね…」
「誤解なんてないでしょ。彩佳がどれだけ苦しんでいたか、分かってます。毎回毎回、大変な宴会の準備を押し付けられ、完璧にしないと怒鳴られる。しかも『使えない』と離婚届まで突きつけられて、経済的な自立もできない。彼女をあなたは縛りつけた。」
「そんな大げさな話では…」
「彩佳はずっと我慢してたんですよ。あなたから逃げるために、経済的に自立して、ようやく離婚できたんです。これ以上、あの子を苦しめないで。あの子の努力を踏みにじって、今更、情けをかけるような真似をするんじゃないわよ。」
「当時…」
「会社に来たんだって?」
「ああ。今、どこにいるか分かんねえんだから、仕方ねえだろ。家にあった書類から特定したから、間違いないはずなのに。」
「まさか、それで特定するなんてね。でも、次から警察を呼ぶから、勝手なことしないで。」
「ふざけんなよ。勝手に決めんな。」
「あなたが離婚されるのは当然でしょ。」
「俺は間違ったことは言ってないだろう。昔は女は家のことをしていたじゃないか。正月の集まりだって、女は台所にいただろう。俺の家もそうだったし、親戚の家もそうだった。家のことをするのは女の仕事だろう。周りはみんな言ってたぞ。台所は女のテリトリーだから、勝手に入るなって。お袋だってそう言ってたのに。」
「それ、何時代?あなたの脳内って、昭和で止まってるわけ?」
「俺はそんな昔の考えじゃ…」
「言ってることが昭和のおじさんなのよ。私、令和に生きてるから。私はあなたの奴隷じゃないし、今は社会に必要とされてるの。もうあなたに必要とされなくていいから。」
その後、優一は慰謝料請求と仕事でのミスが重なり、会社での評価が急落しました。上司から降格を言い渡され、給料も大幅に減り、慰謝料の支払いと生活費で、優一の貯金は底をついたそうです。誰からも助けてもらえず、孤独な日々を送っています。
家で宴会を開いて、自分が会社のムードメーカーだ。俺は信頼されてるんだと言っていましたが、蓋を開けたらこのざま。中身のない人ほど、よく見せたがる典型でしたが、それでうまく隠せていると思っているのは本人だけだった。それが露見して、恥をかきましたね。
一方、私はさえと共に会社を成長させ、副社長として充実した日々を送っています。モラハラから解放され、仕事は充実感でいっぱいで、誰かに命令されて動くだけの人生とは大違い。これからは友人と共に、私は私の人生を歩もうと思います。



