「生まれたの?手足は何本?」
電話の向こうで母が第一声からそんなことを言った。私は産後で疲れ切っていたのに、母は相変わらずだった。
「お母さん、相変わらずブレーキが効いてないですね」
「高齢出産だから変なのが生まれたかと思って」
「まだ33歳ですけど」
「子供はね、20代のうちに産まないといけないのよ」
「それはお母さんの生まれた村の法律ですか?」
「うるさいわね。で、どうだったの?」
「夫に似た可愛い男の子です」
「感謝しなさい。それ、私の遺伝子よ」
「使用料でもお支払いすればいいですか?」
「そうね。毎月の仕送りに5万上乗せしてちょうだい」
「すでに5万送ってるので、10万になります。そんな余裕はありません」
「ケチ。どうせ子供もケチに育つんでしょうね。ああ、やだやだ」
「あの、結局何の連絡なんですか?」
「確認よ。障害があったら、私の孫としては認めたくないから」
「どんな子でも私たちの子ですし、お母さんの許可は必要ありません」
「次男のところも2日前に生まれたらしいわよ」
「知ってました」
「ああ、そうなの。ナ子さんとはあまり交流がなくてね。私が言ったのよ、長男嫁とは付き合うなって」
「そうだったんですね」
「ナ子さんは無能だけど、若いましよ」
「そうですかね。しっかりしてそうですけど」
「ああ、だめだめ。あれは親の躾が悪かったのね。知能指数は100点満点中5点くらいだわ」
「ちなみにお母さんは何点なんですか?」
「100点に決まってるでしょう」
「え?え?何驚いてんのよ」
「未だに砂糖と塩を間違える人がですか?」
「うるさい」
「夫が言ってましたよ。遠足の弁当は毎回生焼けの唐揚げが入ってたって」
「人間ミスくらいあるでしょ。で、何の用でしたっけ?」
「もういい」
数日後、ナ子さんから電話がかかってきた。
「お姉さん、大変です。鬼が500万」
「ごめん、なこちゃん。意味が分からない」
「私、先週の火曜に出産したじゃないですか」
「うん」
「私は木曜日に産んだよ。惜しかったね」
「同じ日に産みたかったですよね」
「じゃなくて、ごめんごめん。今日退院して家に帰ってきたら、早速お母さんがやってきて現金500万置いてったんです」
「なんで?」
「出産祝いですって」
「あの鬼母が?嘘でしょ?」
「本当なんですよ」
「マジか。怪しくないですか?」
「怪しい。あのケチがそんな大金出すわけがないですよね」
「私も何のお金か分からないから怖くて断ったんですけど、無理やり置いていかれて困ってるんです」
「多分、銀行強盗してきたんだよ」
「ありえますね。あの謎の圧力で窓口の人もお金出しちゃいましたかね」
「絶対そう。触んない方がいいよ」
「はい。指紋つけないようビニールに入れてます」
「直樹君には言ったの?」
「帰ってきたら現物見せて説明します。じゃないと信じないでしょうし」
「だよね。金の無心しかしない強欲ババアがそんな大金くれるわけないもん」
「普通にキモいですよね。今まで散々私たち嫁のことをゴミみたいに扱ってきたくせに」
「本当だよ。うちなんか、蝶々なんてだけで毎月仕送りさせられてるしさ」
「私なんて、金出さないなら体使えって言われて、月の時に床の拭き掃除させられましたからね。行く必要ないのに」
「私もお姉さんみたいに強く言えたらいいんですけど、部活の顧問にそっくりで、つい従っちゃうんですよね」
「でも掃除なんてやってないんでしょ」
「はい。クイックルワイパーでシャッと。あんな汚い家の床を今更拭いたところで無駄だよ」
「本当それです」
「お父さんが生きてる頃はまだマシだったのよ」
「え、そうなんですか。信じられません」
「1人になって暇になったから、嫁いびりに精を出してるの」
「でもこうやってお姉さんに愚痴れるから、どうにかやっていけてるんですよ」
「私たちが仲いいのを、あいつ知らないからね」
「悪口全部筒抜けなんですけどね」
「それにしても問題はそのお金だね」
「そうなんですよ。私も明日退院だから、うちにも来るかな」
「どうでしょうね。動きがあったら教えてください」
「わかった。とりあえず育児頑張ろう」
「はい」
翌日、案の定、母がうちに来た。
「あんたも退院したんだって」
「はい」
「33歳で出産して、近所に笑われてない?」
「うちのご近所さんは常識的な方ばかりなので」
「たく恥ずかしいったらありゃしない」
「何歳で産めば恥ずかしくないんですか?」
「若けりゃ若い方がいいに決まってんでしょ。次回から気をつけなさい」
「で、何のご要件でしょうか?」
「ああ、そうそう。お祝い持ってきてあげたのよ」
「え、私ずっと家にいますけど、来ました?インターホン鳴ってないですけど」
「あんたの顔なんて見たくないから、玄関に置いてきた」
「危なくないですか?」
「何が?」
「ちょっと待ってください。今見に行くんで」
「遠慮せず受け取って。わざわざ持ってきたんだから、感謝しなさい」
「えっと、何すかこれ?『大嫌いな長男嫁へ』……どうぞ」
「え、いや、これ猫の餌ですよね」
「あれ、間違えちゃったみたい。でも原材料ほぼ同じだから大丈夫でしょ」
「わざとですよね」
「うっかりしちゃったのよ。そもそも売り場が違うけど、まあ、ペットフードにでも使って。出産祝いがこれで合ってるわ」
「だって長男と次男の嫁が同じタイミングで産むんだもの。こちらも予算ってものがあるのよ」
「分かりました。ありがとうございます。遠慮なくいただきますね。では失礼します」
「待って」
「何ですか?」
「出産祝い、次男のところが何もらったか気にならない?」
「なりません」
「出産祝いに、次男嫁には500万あげます。というか、あげました」
「それが言いたかっただけじゃないですか?」
「あんたもお金もらえると思ったんでしょ?期待してたんじゃないの?」
「してませんけど、不思議ではあります」
「どうして年金暮らしで、私たちから仕送りをもらうほど生活に余裕がないお母さんに用意できるお金ではないからです」
「あら、失礼ね。私にだって500万くらい貯金はあったのよ」
「だったら助ける義理はありませんよね。仕送りやめますよ」
「別にいらないわよ。勝手にしろ」
「本当にいいんですか?年金6万で米が買えないって夫に泣きついたのに。月5万の仕送りがなくなっていいんですね」
「いいわよ。あんたに頭下げてまでもらいたくない」
「だったらいいんですが」
「500万貯金があったってのは嘘ですよね」
「あんたに関係ないでしょ」
「そうですが、気にはなりますよ」
「うるさい。今後は次男夫婦の世話になるからいいの」
「どういう意味です?」
「直樹が大出世するらしいのよ。え、まだ29歳なのに一気に支社長なんですって」
「そんな話、あります?」
「悲観なんて3ともないわよ」
「いや、そうじゃなくて。私も昔から長男より次男の方が才能あるとずっと思ってたのよね。やっぱり思った通りになったわ」
「なるほど。直樹君の方が出世するから、乗り換えるってことですね」
「そんな言い方しないで」
「だからって、なぜ500万も渡すんですか?お母さんはお金が欲しいだけの人ですよね。そんな大金を差し出す理由が分かりません」
「そりゃね、これからお世話になるんだし」
「はい」
「出産に大金をくれる義母を、ナ子さんだって邪険には扱わないでしょ」
「散々ご自身が嫁を邪険にしてきたくせにですか?」
「それはあれじゃない。いい嫁になってもらおうと思って教育しただけよ」
「私たち、そんなこと頼んでもないし、望んでもいませんが」
「そういうのも含めて500万ってこと」
「よく分かりました。月に5万送金していた長男にはつなかん。いえ、猫かで、今後出世するであろう次男に500万を渡してご機嫌を取りたいってわけですね」
「まあ、平たく言うとそうなるかしら」
「うちは構いませんよ。仕送りしなくて済むのであれば助かるだけですし。今月分まではいただいておくから。じゃあね」
数分後、ナ子さんにスクショを送った。
「スクショ見てくれた?」
「見ました。一体どういうことですか?直樹が社長だなんて、私も知らないんですけど」
「そうなの?」
「まだ係長にすらなってない人間を、どこの会社が社長に抜擢するんでしょうか?」
「確かに変ね」
「直樹は真面目だし、頑張ってます。でも私の目から見ても普通だと思うんですよね」
「うちからの仕送りを断って、ナ子ちゃんのところに乗り換えるような言い方だったよ」
「ちょっと勘弁してくださいよ。なんで今までやってきたことが500万でチャラになると思ってるんですか?」
「本当だよ。私がされてきたことと、ナ子ちゃんがされてきたこと、両方カードにして対決したらいい勝負だよね」
「ギモンカード作ります。若干お姉さんの方が歴が長いんで負けますけど」
「勝ちたくもないわ」
「でも、あんなお母さんだとは思わなくて絶望してたところに、お姉さんが味方になってくれて、私がどれだけ救われたか」
「じゃあ500万ちょうだい」
「いいですよ。ちょうど家にあるんで、あげます」
「いらない。そのお金だけは怖い」
「ああ、そういえば直樹君、お金のことを何て言ってた?」
「すぐに鬼に電話してましたよ。『この金は何だ?』って。そしたら?」
「『気持ちだから遠慮せず受け取って』ですって」
「不気味」
「直樹も同じこと言ってました。怖いから手をつけるなって」
「でも、そんな大金が家にあるの、怖くない?」
「そうなんですよ。だから早く盗んだ銀行に返して欲しいんですけど」
「強盗したことになってる」
「3人、赤ちゃんのお世話で精一杯なのに、余計なことしないで欲しいです。うちは猫の餌でよかったわ。指紋つけようがどうってことないし」
「普通、つかんと間違えますかね。わざとに決まってるじゃない。そういう人だもんね」
「でも、その500万はちょっと気持ち悪いわね。私ので調べてみていい?」
「助かります。お姉さん頼りにしてます」
「それやめて」
数分後、マイクに電話した。
「マイク、出産祝いだよ。可愛い洋服ありがとう」
「どういたしまして。久しぶりだね。元気にしてる?」
「てら久しぶりだがや」
「瞳、今は愛知か。味噌かつと手羽先、出る前」
「親の遺産で日本中を旅するなんて、羨ましいよ」
「お金は使えばなくなる。ピンチ」
「なるほど。それで探偵業始めたんだ」
「あ、物価高で生活が苦しい。探偵は友達の役に立ちたくて始めたよ」
「追い詰め屋はやめたの?」
「触れないギリギリの嫌がらせをして、ひたすらストレスを与え続けるやつ。やってるよ。でもあれはお金もらってない」
「OL時代、マイクのおかげで昭のお局が退職して、仕事が続けられたんだ。本当感謝してる。あのババア、サイコパス大魔人だった」
「いい加減教えてよ。どんなストレスを与え続けたら会社をやめることになるわけ?」
「ゲーム。ケチ」
「それより、何の用?」
「実は、義母が突然500万もの大金を次男の嫁に渡したの」
「おお、リッチなマザーだね」
「それが超ドケチで貧乏なのよ」
「ああ、怪しいね」
「でしょ。どうやら次男が支社長になると思い込んで、ワロみたいな意味合いで渡したらしいのよ。意味不明でしょ?」
「そうなの?年金暮らしの女性に出せる額じゃないと思わない?」
「確かに」
「だから、その500万の出所と、次男が社長になったという噂の出所を調べて欲しいの。こんなこと探偵さんに頼んでいいのか分からないけど」
「任せんかい。行ける?僕には日本全国に師匠がいる。スナックのチーママ、豚骨ラーメンの大将。僕の人脈、なめんな」
「そっか。じゃあお願いするね」
「エビフライ食ったらな」
数日後、マイクから連絡があった。
「ひ、色々分かったよ」
「早くない?」
「まず、直樹さんの出世の話はもちろん嘘」
「それは知ってる。本人も否定してるみたいだし」
「義母は詐欺師に騙されてる。『次男さん、近々社長に出世しますよ』って吹き込んで、『今のうちに500万渡して恩を売っておけば将来安泰ですよ』って。そのやつがいる」
「そんな怪しい話、普通信じる?」
「信じない。義母の頭、絶望的に悪い」
「義母の評価が世界基準でも同じで安心したよ」
「お金がないなら貸しましょうかって言われて、義母はその詐欺師から直接500万借りたんだがや」
「絶対まともな金貸しじゃないでしょ」
「その通り。金利高すぎの違法な闇金だよ」
「でもさ、いくらそんなところでも、年金暮らしの年寄りにお金貸す?」
「家の権利書を預けてお金借りたみたい」
「嘘だよね。やばすぎでしょう」
「500万借りて、利子は200万」
「どういう計算よ。めちゃくちゃじゃない?」
「多分何も考えずに借りてるね。勢いだけで生きてるような人だからな」
「でも今頃、真実を知って震え上がってるはず」
「え?母の耳に入るように、支社長の話は嘘だって噂をばらまいておいたがや」
「そんなこと、どうやってやるのよ」
「シゲーム。何か1つくらい教えなさいよ」
「信頼と安心のマイク探偵事務所だよ」
「まあいっか。調べてくれて本当にありがとう」
「ユアウカム」
「どうやってその情報にたどり着いたかも教えてくれない」
「主義だよね」
「ちなみに、お祝いにくれた洋服、ピンクのフリフリで可愛いけど、うち男の子だから」
「オーマイガー」
数日後、ナ子さんから電話が来た。
「なこさん、あの500万返して」
「はい」
「いいから、さっさと返しなさいって言ってんの。あんた、まさか使ってないでしょうね。1円でも手つけてたら許さないから」
「手をつけてないので構いませんけど、人にあげておいて、その言い方はちょっとあんまりですね」
「何よ、この私に口答えなんて」
「ある人に触れて、黙ってるだけじゃいけないって思うようになったんですよ」
「どうでもいいけど、あんたも今月から仕送りしなさい」
「無理です。子供のためにお金貯めていきたいので」
「おむつは布にすればいいわ。ミルクなんか買うんじゃないわよ。自力で出しなさい」
「お母さんに差し出されたくないです」
「はあ。また床磨きさせてやろうか」
「もう行きません」
「あんた、何言ってんの?私に逆らったらどうなるか、思い知らせてやる」
「どうにもならないと気づいたんです」
「ふざけるな。今まで通り黙って言うこと聞け」
「嫌です。夫とも相談して、絶縁することで了承を得ています」
「直樹は母親思いの優しい子よ。私を裏切るわけがないわ」
「夫にとって大事な存在である私を邪険に扱うような人は、母親じゃないと言ってました」
「嘘よ」
「夫に連絡しても無駄ですよ。すでにブロックしてるので」
「は、私もこれを最後にブロックします。では、さようなら」
「待ちなさい。500万返してからにしなさい」
2時間後、また電話がかかってきた。
「ちょっと、あんた、仕送りの件だけど、やっぱり再開して」
「もうしないって言いましたよね」
「うるさいわね。こっちは事情が変わったのよ。毎月15万に増やして」
「無理です。嫌です。ありえないです」
「じゃあ200万貸しなさい」
「それが人に頼むでしょうか」
「黙ってればいいのよ。こういう土壇場でも顔を突き通すのは、さすがです」
「お願い。200万の借金があるのよ」
「詐欺師に騙されたらしいですね」
「え?なんであんたが知ってんのよ」
「まあ、私レベルになると、そういう情報が手に入るんです」
「あなた、何者なの?」
「私の正体を明かすことはできません」
「え、次男の出世は嘘で、お金を貸してきたやつは違法な闇金だったんですよね」
「そんなことまで」
「ナ子さんから取り返した500万を返済しても、200万の利息がつくような悪徳金融から借りるなんて、短絡的にもほどがあります」
「助けてよ。貸してくれた男性も最初は優しかったのに、だんだん口調が怖くなってきて」
「それが手口ですからね」
「生きた心地がしないわ」
「そうなんですか。大変ですね」
「人みたいに言わないで。長男の嫁なんだから、義母のピンチを助けるのは当然でしょ」
「助けたい気持ちはあるんですけど、猫缶しかあげないくらい大嫌いな嫁に頼るなんて。お母さんのプライドが許さないでしょう」
「そんなこと言ってる場合じゃないの」
「これを機に、うちも縁を切らせていただきます。ボットもすでにブロック済みですし、これで3人目ですね」
「なんで次男夫婦にブロックされたこと知ってるの?」
「私とナ子ちゃん、仲良しなんです。お母さんが私の悪口言ってたの、筒抜けでしたよ」
「は?騙したのね」
「嫁いびりを1人で耐えなければいけませんか?ネチネチ嫌味言われた後に愚痴るのも許されませんか?嫁なら我慢しろ、ですか。冗談じゃありません。私たちは嫁である前に人間です。夫の親だからと耐えてきましたけど、もう限界ですから」
「あんたたちまで私を捨てるの?ひどい。あんまりよ」
「さようなら。どうかお元気で」
「こいつ、絶対に後悔させてやる」
数日後、今度は夫が電話に出た。
「お母さん、いい加減にしてください。お金貸す気になった。家にやってきては、昼寝の時間に狂ったようにインターホンを連打するなんて、非常識すぎます。赤ん坊が起きて大変だったでしょう」
「さらに、近所の人たちに『長男の嫁は乱れてる』って。根も葉もない噂を言いふらしましたね」
「事実でしょ」
「今朝、ゴミ出しの時に近所の奥さんたちから、変な噂が飛び交ってるって言われました」
「あ、自業自得よ」
「本当に哀れな人ですね」
「これで私が本気だって分かったでしょ。毎月お金さえ払えば、誤解を解いてあげるわよ」
「分かりました。こちらにも考えがあります」
「は?何よ」
「警察に行きます」
「なんで?」
「お金を借りるために権利書を持ち出し、家と土地を抵当に入れましたね。あの家はお母さんと長男次男で相続したはずです」
「そうだったかしら?」
「3人の共有名義で登記されてたそうじゃないですか?」
「さあ、覚えてないわ」
「普通の金融機関なら、他2名の承諾を得ず土地を抵当に入れることはしないんです。でも登記を確認したら、見知らぬ人物に変わっていました」
「へえ。そうなのね」
「知らばっくれないでください。夫たちの実印と印鑑がなければ不可能です」
「まあ、そうでしょうね」
「騙しましたね。何が『夫と直樹君に土地の名義の件で印鑑が必要だ』と言って、判を押させたのは分かってるんです」
「押す方が悪いんじゃない?」
「開き直るんですか?印鑑証明も取りに行ってあげると言い、代理人にまで応じさせましたね」
「ち、覚えてないわよ」
「言っておきますが、相当やばいですよ。完全に犯罪ですから」
「やだ。私、知らなかったのよ」
「いいえ、騙す意思が明確にありますし、どう考えても詐欺でしょう。身内が身内を騙したところで、警察沙汰になる。どうなるか、楽しみに待ってたらどうですか?ちなみに私も遠慮しませんよ。インターホン連打の防犯カメラ映像と名誉毀損の証拠もばっちり揃ったので、警察と弁護士に提出しておきますね」
「あ、いただいた猫缶、とても美味しかったそうです。友人の猫が『よろしくお伝えください』と言ってました」
「待って。謝るから。ごめんね。私の大事な人たちを騙して傷つけて」
「そんな軽々しい謝罪で済むと思わないでください」
「何をする気?」
「ない」
数分後、マイクに電話した。
「マイク、ごめん。追加で依頼していい?」
「イボの剣だね。まあ、みたいなもんだけど」
「義母ね。本気でムカついたから、霊のやつお願い」
「オコース。あのお局より多めに、徹底的にストレスかけてやって」
「任せときゃ。愛知の人に怒られるよ」
3日後、母から電話がかかってきた。
「ひ、さん、お願い、助けて」
「どうしたんですか?」
「警察の取り調べが辛い」
「在宅起訴なんですから、それだけでもマシでしょう」
「それだけじゃないの。家に鳩が集まるようになって、匂いがひどいのよ」
「うわ、大変ですね」
「謎の東南アジア人の男が毎朝インターホン鳴らしては『間違えた。ごめん』って言ってくるし」
「きついですね」
「しかも、スーパーの半額シールのお総菜は、必ず気の強そうな中国人の女が、私が手を伸ばす直前で全部買い占めちゃうの」
「で、私にどうしろと?」
「闇金の取り立てても厳しい上に、毎日こんな地味なストレスが続いて、もう頭がおかしくなりそうなのよ」
「神様が天罰を下してるんじゃないですか」
「神なんているわけがないでしょ」
「今まで人に散々嫌がらせをしてきた分が、帰ってきたんだと思いますけどね」
「私が何をしたって言うの?」
「まさかお忘れですか?結婚の挨拶に行った日から、私のコーヒーに大量の塩を入れましたよね」
「あれはお砂糖と間違えただけよ」
「お正月の親戚の集まりでは、私とナ子ちゃんにはご飯も食べさせずに、1日中冷え切った台所に立たせて、火の番のようにこき使いましたよね」
「嫁なんだから、親戚をもてなすのは当たり前でしょ」
「ナ子ちゃんが熱を出して寝込んだ時には、お見舞いを装って家に上がり込んで、冷蔵庫に入っていた高級和牛だけを黙って持ち去ったりもしましたよね」
「あれはお肉が痛むともったいないから、代わりに食べてあげただけで」
「今まで私たちをゴミみたいに扱って、裏で散々意地悪してきたじゃないですか。それが今回、そっくりそのままあなた自身の身に振りかかってるだけです」
「そんな。お願い、私を見捨てないで」
「なんて贅沢言わないし、真面目に働いて返すから、お金を立て替えて」
「無理です。金の500は返したのに、なぜか利息の200万に利息がつくとか言われて困ってるのよ」
「頑張ってください。はるか彼方から応援してます」
「冷たいこと言わないでよ」
「私たち嫁の不満も限界まで膨らみました。夫のことが好きだから、その家族とも仲良くしたいと、我慢して耐えてきたんです。だって、仲がいい方が絶対に楽しいと思ったから。私だってそうしたかったのよ。でも、お父さんが亡くなって、息子たちや嫁が私に気を使ってくれるようになって、なんか自分が1番偉いんじゃないかって思ってしまったの」
「さんに女王にでもなったかのような変貌ぶりでしたよね」
「そうね。1人になった寂しさを埋めるためには、悪態ついて追い出すしかなかったのよ」
「何1つ納得できないですし、言い訳にしか見えません」
「全て水に流して、今後は仲良くしましょう」
「こっちは何度も流してますよ。そのせいで配管が詰まって故障したので、もう無理です」
「瞳、私はあなたを認めてるのよ。長男の嫁としてふさわしいって、ずっと思ってたわ」
「今更ご機嫌とっても無駄です。一生、今後も続く地味なストレスと闇金の取り立てに苦しんで生きてください」
「そんな。許して。お願いだから許して」
翌日、マイクからベビー服が届いた。
「とミボーイのベビー服を送った」
「え、気使わなくていいのに」
「だめ。お祝い大事」
「ありがとう。義母は多分捕まると思う」
「それがいい」
「妨害な金利については、夫が弁護士を入れて、払わずに済んだみたい」
「ああ、違法な闇金、最低」
「寝れてるか?」
「こ切れだけどね」
「豚肉の話してないよ」
「まとまって眠れてないってこと」
「日本語むず。でも母ちゃんたちは偉い。師匠も言ってた。母ちゃんには頭が上がらんって」
「へえ。そういえば、今回の師匠は誰なの?」
「まぶし屋の大将」
「うわあ、いいなあ。食べたい」
「ひ、今後は人生を楽しめ」
「分かってる。マイクのおかげだよ。ありがとう」
「ところで、気の強そうな中国人はどう手配したのよ」
「周費ゲーム」
「はいはい。聞くでした。名古屋ライフ楽しんでね」
「終わり名古屋は白で持つ」
「意味わかってんのかよ」
「ほい。じゃあな」
その後、義母は名義を勝手に使った件で、執行猶予つきの有罪判決を受けました。不正な抵当権は抹消され、義母が持ち分を全て放棄したことで、実家は夫と直樹君の共同名義になりました。当然そこを追われた義母は、現在家賃2万のボロアパートで、深夜のビル清掃アルバイトを掛け持ちしています。ボロボロの腰を叩きながら、チップだらけで半額シールのお総菜を、例の中国人女性と毎日激しく奪い合っているそうです。さらに、マイクによる地味な嫌がらせも今なお継続中で、彼女の神経をじわじわとすり減らし続けているようです。ちなみに、義母を言葉巧みに騙した詐欺グループも、マイクの調査と証拠によって全て逮捕されました。ナ子ちゃんたち次男夫婦も鬼から解放され、平穏で幸せな毎日を過ごしています。私たち夫婦も、息子と3人で幸せな毎日を過ごしています。ちなみに、いただいたお祝いの猫缶にダンボール一箱分を買い足して、マイクが寄付している保護猫カフェへプレゼントさせていただきました。この世にはどうしても分かり合えない人間がいますが、自分を守るために関係を断ち切ることも大事なのだと、改めて気づかされました。今後も家族を守るため、強く生きていきます。



