「『スーパーでレジ打ちしてる底辺の義妹には、私たちの式に来る資格はないわ』…
「佐藤、俺、結婚することになったよ」 突然の電話の向こうで、兄の声が弾んでいた。 「え、結婚?本当?」 「ああ、30歳を前にして、ようやくプロポーズが成功したんだ」 「もしかして、あの東大卒のすごい人?」 「ああ。大手企業で働いて、仕事でも結果を出してる、本当に尊敬できる人なんだ。俺にはもったいないくらいだよ」 兄が幸せそうで、私も嬉しかった。兄は昔から私を気にかけてくれる、自慢の兄だ。私がスーパーでレジ打ちのパートをしていることも、何も言わずに受け入れてくれている。 「式もあげる予定なんだ。千里にも必ず参加してほしい」 「もちろんよ。盛大にお祝いするわ」 「仕事が忙しいのは分かってるけど…」 「そんなの気にしないで。スーパーは土日も出勤だけど、兄の結婚式って言ったら絶対に休みを取るから。日程が決まったら早めに教えてね」 「ああ、ありがとう。その前に、両家の顔合わせもあるんだ。それにも来てほしいと思ってる」 「私が行っていいの?」 「当たり前だろ。自慢の妹を紹介したいんだ」 その電話から一ヶ月後、私は義理の姉になる人と会うことになった。彼女の名前は愛子さん。初めて会った時は、品のある、しっかりした印象の人だった。兄が選んだ人なら間違いないと思った。 だが、それが間違いだった。 「千里さん、久しぶり。ちょっと話があるのだけど」 顔合わせの後、愛子さんはにこやかな笑顔のまま、私に切り出した。 「私たちの結婚式なのだけど、あなたには不参加でお願いできないかしら」 一瞬、何を言われたのか分からなかった。 「え?不参加?どうしてですか?私と安典さんの結婚式は、単なる結婚式じゃないのよ。私たちの立場、分かってくれてるでしょう?」 「立場?」 「私は東大卒。安典さんも名門の出身よ。当然、式に来るのはそういう人ばかり。そこに、あなたが混ざって平気だと思う?」 「やっぱり、そういう感じの式になるんですね」 「だからこそ、千里さんには不参加でお願いしたのよ」 「どうしてですか?」 「『分不相応』という言葉、分かる?」 「分かりますよ」 「ああ、よかった。伝わったようね」 私は静かに言った。 「つまり、私にはその式に出る資格がないとおっしゃりたいんですね」 「そうよ。スーパーでレジを打ってる底辺の義妹。顔合わせで、あなたの話を聞いた時は驚いたわ。まさか安典さんの妹が、こんな出来損ないだなんて」 スーパーでレジ打ちをしていることが、そんなに悪いことでしょうか。私は胸の内でそう呟いたが、言葉にはしなかった。 「26にもなって、そんなことをして恥ずかしくないの?私があなたの年の頃には、今の会社でバリバリ仕事をこなしてたわよ」 「私が働いてる会社には、行ったことあるかしら?」 「いえ、そういう話は聞いてません」 「ITコンサルの会社よ。今は大きな案件を任されてるの。これが成功したら、きっとすぐに昇進するわ。あなたじゃ、到底追いつけないような立場にね」 「別に、私はあなたに追いつこうなんて思ってませんよ」 「負け惜しみはみっともないから、やめなさい」 「お姉さんって、そんな人だったんですね。前に会った時は、もっと品のある感じだったと思うんですけど」 「そりゃ、使い分けはちゃんとしてるわ。優秀な人と無能な人を、同じように対応したら不公平でしょ」 「兄さんには、その一面は見せてないんですよね?」 「そりゃそうよ。私ほどじゃないけど、優秀な人だからね。大手に勤めて、仕事だってできる。会社でも期待されてるんですってね」 「そうなんですか。そこまでとは知らなかった」 「あら、あなたは何も教えてもらってないのね」 「兄さんは、そんな自慢みたいなことはしないからです」 「とにかく、不参加でよろしく」 私は、兄に言うよ、と伝えた。すると、愛子さんは余裕の笑みを浮かべた。 「だったら、私から説得するわ。こんな式に出ない方が、あなたのためだってね」 「どうして、そんなことが言えるんですか?」 「だって私は、そのために勉強を頑張ってきたんだもの」 「どういうことですか?」 「バカを見下すのが楽しくて、勉強してたのよ。立場が上になればなるほど、馬鹿にできる人間が増えていくでしょう?それが私は、楽しくて仕方ないの」 「性格が終わってますね」 「でも、私、優秀なのよ。脳みそが終わってるあんたとは、次元の違う生活をさせてもらってるわ」 … Read more