「おい、なんでお前がここにいるんだよ」——保育園で元夫と鉢合わせたその瞬間、彼は私にこう言った。「誰かと思ったら、俺に捨てられた不妊女かよ。」私は4年前、突然離婚届を突きつけて家を出て行った元夫の顔を、まさか我が子の保育園で見ることになるとは思ってもみなかった。しかも彼は再婚していて、子供もいるという。さらに彼の新しい妻が現れて、「早くうちの保育園から出て行ってくださいよ」と迫ってきた。そし…

「おい、なんでお前がここにいるんだよ。」 保育園の入り口で聞き慣れた声がして、私は足を止めた。振り返るとそこには、4年前に突然離婚届を突きつけて家を出て行った元夫・たけしが立っていた。 「何よ、その言い草は。私だって子供を預けに来てるだけよ」 「はっ、誰かと思ったら俺に捨てられた不妊女か。笑っちゃうな」 その言葉に私はカッとなった。捨てたっていう自覚はあるんだ。いきなり離婚届を置いて消えたくせに。 「あんた、私のこと引きずってるの?」 「違うわよ。怒りがフラッシュバックするのよ」 しばらくにらみ合っていると、たけしが不意に口を開いた。 「そういや、お前楽器を連れてきてたよな。あれは何だ?」 「私の子供に決まってるでしょ」 「あのガキ、俺の子か? まさか妊娠してたとはな。てっきりお前は出来損ないだと思ってたぜ」 「バカ言わないで。あんたの子供なわけないでしょ」 「でも俺に似てたぜ。もし俺の子だとしても認知はしねえからな」 「気持ち悪いこと言わないで。あの子は私と今の夫との間にできた子よ」 たけしは面倒くさそうにため息をついた。 「再婚してたんだな。でもめんどくせえな。お前、うちと同じ保育園なんだろ」 「あんたの子供も同じ保育園なのね」 「再婚はいつしてたんだ?」 「今はそんな話をしてる場合じゃない。悪いけど、他のところに行ってくれる?」 「は? 待ちなさいよ。この辺りはどこもいっぱいで、なかなか通わせるのは難しいんだから」 「黙れ。ここの保育園には俺の方が先に通わせてたんだ。後から来るなんて許されるわけないだろう」 「何よ、そのわけのわからない理論は」 「ここは俺たち家族が使うもんだから。お前らは別のところに行け」 「別に顔を合わせなければ問題ないでしょ」 「俺が気持ち悪いんだよ」 「私だって気持ち悪いわよ」 「とにかく別のところに行け」 「保育園を見つけるのも簡単じゃないのよ」 「だったらお前が嫌になるようにしてやるからな」 そう言い残して、たけしは去っていった。私はその場に立ち尽くし、深いため息をついた。 その夜、夫のかゆに相談した。 「かゆ、ちょっと困ったことになったわ」 「何、どうかしたの?」 「さっき悠を保育園に送ってきたんだけど、その時にどうやらたけしがいたみたいで」 「たけしって、元旦那の?」 「そう。何度か話したことはあったよね」 「もちろん覚えてるよ。どうやら向こうも再婚して、子供ができてたみたい」 「そうなんだ。でも入園式の時には会わなかったよな」 「うん。向こうは私たちよりも早く預けていたみたい」 「え、待って。それって計算上おかしくない? 俺たちだって再婚してかなり早くに妊娠したじゃん。それより向こうが早いって変だよ」 「いや、変じゃないよ。連れ子だと思うから」 「なんで言い切れるの?」 「ほら、前に話したことがあったでしょ」 「ああ、そうか。確かに早苗の言う通りだ」 「それでたけしから連絡が来て、保育園を変えろって言われてるの」 「気まずいからってこと?」 「そう」 「そんなの聞く必要ないよ。気まずいのはこっちだって一緒だし。顔を合わせるのが嫌なら、俺が送り迎えに行ってもいいしね」 「でもそれだと、かゆが大変だわ」 「全然気にしないでいいよ。悠との時間が取れるのは嬉しいことだから」 「そうね。でも、色々と考えないといけないわね。他の保育園にはさすがに行けないだろうし。家から離れてるのもあるし、そもそも受け入れてもらえるかどうかも分からないし」 「うん。そこら辺も2人で話し合って決めよう。まず1番は悠のことを考えないと」 … Read more

30 August 2026

結婚式の最中、義理の父になるはずの男が、突然私にビールをぶっかけてこう言った。「エリート一家の結婚式に底辺が来るんじゃねえ。中卒のくせにどんな面下げてきてるんだ?」私は妹を大学に行かせるために進学を諦め、働き続けてきた。それなのに、この男は私の存在を消そうとした。それだけじゃ飽き足らず、私は彼の取引を台無しにし、妹の婚約も壊してしまった。だが、彼が私に言った一言で、すべての真実がひっくり返っ…

「太田さん、どうしてこんなことをしたんですか?」 「おい、どうして俺の連絡先を知ってるんだ?」 「波から聞きました。どうしても確認したいことがあったので」 「確認することなんて何もないだろう」 「あるに決まってるでしょう。いきなりビールをぶっかけられたんですから。説明してください」 「お前みたいなもんが式に来てるのが我慢ならなかったんだよ」 「何ですって?」 「エリート一家の結婚式に底辺が来るんじゃねえ。目が覚めたのなら消えろ」 私は妹・波の結婚式で、太田さん——波の義理の父親になるはずだった人物——から突然ビールをかけられた。理由もわからず、びしょ濡れのままトイレに逃げ込んだ私は、電話で太田さんと言い合いになっていた。 「この式は私の妹の式でもあるんです。参列する資格はあるはずです」 「お前みたいな奴が来られると迷惑なんだよ。中卒の底辺がどんな面下げてきてるんだ?」 「参列するのにエリートも何もないと思います」 「我々が恥をかくんだよ。今回の式には親戚だけじゃなく、私や達也の勤務先の人間も来てるんだ。彼らにお前のことがバレたらどんな目で見られるか」 「別に私のことを白い目で見る人なんていませんよ。確かに私は中卒ですが、しっかりと仕事をしています」 「どうしようもない中小企業だろう」 「だとしても、私は後ろめたいことは何一つありませんから」 私は高校を卒業できず、中卒で働き始めた。両親が亡くなり、残された妹を養うために進学を諦めたのだ。だが太田さんはそんな事情をまったく知ろうとしない。 「まさかまだ場内にいるのか?」 「当たり前でしょう。ビールでびしょびしょなのに外に出られるわけないです。今はトイレの個室にいるんですよ」 「そうか。じゃあ、良いところで帰ってくれ。二度と式場内に戻ってくるんじゃないぞ」 「まだ式は終わってないですよ」 「お前が式に来たこと自体が間違いだったんだよ。妹のことを思うのなら欠席するべきだったんだ」 「どうしても私を排除するつもりなんですね」 「当たり前だ。これは我が家にとっても大事な式だからな」 私は腹が立って、一言だけ言い返した。 「そんなに品格を大事にされるのでしたら、こんな式なんかよりも仕事を頑張った方がいいんじゃないですか。そっちで名を上げた方がよっぽど品格は上がりますよ」 「黙れ。そんなこと言われなくてもやってる。現に今は大事な取引の最中なんだ。それがまとまれば、俺はさらに出世することになる。そんな大事な時だからこそ、お前のような底辺にうろつかれると困るんだよ」 「あなたの思う通りには絶対にしませんから」 電話を切った後、私は波に連絡をした。お色直しで控え室にいるという波に、直接会って話したいと伝えると、彼女は嫌な顔ひとつせずに応じてくれた。 控え室に入ると、ウェディングドレス姿の波がいた。 「お姉ちゃん、どうしたの?」 「いや、ちょっと仕事に関することというか」 「へえ。そんな話をするんだ。結婚式なのにごめんね」 「いいよ。お姉ちゃんのわがままなら、私は聞くから。ていうか、私にそれを否定する資格ないしね」 「資格なんて言わないでよ。二人しかいない姉妹なんだから、何でも正直に言って」 「これが私の正直な気持ちだよ。私にとってはお姉ちゃんが親代わりだったし……ちゃんと代わりが務まったかは疑問だけどね」 「そんなことないでしょ。だって私はこうしてお姉ちゃんのおかげで幸せな結婚をすることができたんだから」 波は私に内緒で大学に行かせてもらったことをずっと感謝してくれていた。 「お姉ちゃんも早く結婚してね」 「私はまだちょっと難しいかな。仕事が色々と立て込んでて」 「私を大学に行かせるために頑張ってくれてたんでしょ。だったらもういいんじゃない? 好きなことをしてみたら」 「最初はそういう気持ちだったんだけど、意外と今の仕事が楽しいって思えてるのよ。ちゃんと周りから評価もしてもらってるし、こんなに幸せな職場はないって思ってるわ」 私は礼を言って控え室を出た。そして、今度は達也に直接会って話をしようと決めた。 達也は控え室の外で待っていた。彼に事情を話すと、彼はため息をついた。 「やっぱりそうなりましたか」 「お父さんって昔からああいう人なの?」 「父は肩書きを大事にしてますからね。中卒なんて単なるどうしようもない生き物だって思ってるんですよ。実際、俺もいい大学行けと厳しく言われてましたから。だからお姉さんみたいな人が許せないんでしょうね」 「うちの事情は知ってくれてるでしょ? そのことをお父さんに説明してくれないかしら?」 「それはちゃんと説明してますよ。これなりにやれるだけのことはやりました。父が中卒のお姉さんにどんな対応をするかは想像できましたからね。でも、残念ながら結果は変わらなかったみたいです」 「このままだと、私、式に参列できないの」 「それはすごく残念だと思います。波はお姉さんと仲良しですから、悲しみますね。ただ、私としては何よりも式を問題なく終わらせたいんです。変な揉め事は勘弁して欲しいというのが正直な気持ちです」 「帰れって言ってるように聞こえるわ」 「私にとってこの式はとても大事なものです。それをぶち壊すようなことはやめてください」 … Read more

30 August 2026

7年間の結婚生活の末、義母から離婚届を叩きつけられた。「子供を産めない血管品は不要。出ていけ」と言って。夫も同じだった。私の体のせいだと決めつけて、家から追い出された。 「お前に子供なんて産めるわけがない」──そう言われて泣き寝入りするしかなかった。…

「お母さん、どこに行ったんですか?ちゃんと話し合いましょうよ」 「あんたと話すことなんてもうないわ」 義母は私の顔も見ずに、離婚届をテーブルに叩きつけた。あまりに突然のことで、私は一瞬何が起きたのか理解できなかった。 「いきなり離婚届を投げつけて、話が終わりなんてありえないでしょ。どうしてこんなことをするんですか?」 「あんたが全部悪いのよ。こっちが被害者なんだから。これ以上私たちを苦しめるのはやめてよね」 「被害者?何を言ってるんですか。もう7年も私は待ってあげたのよ。なのにあんたは全然子供を産まない。こっちにも我慢の限界ってものがあるの」 「あんたなんて我が家にはもう必要ないから、出ていけ」 「子供ができないのは事実ですけど、それだけで私を家から追い出すというんですか?」 「当たり前でしょ。うちは代々続く本家なの。この血筋を絶やさないために、女がやるべきことは子供を産むということだ。それさえやってればあとは何もしなくてもいいくらいなのに、あんたは肝心の子供を産まなかった」 「子供ができないのは私だけが原因じゃありませんよ」 「はあ?もしかして啓介のせいにするつもり?」 「責任があるとしたら、2人にあると言ってるんです。だから子供が欲しいのなら啓介にも言ってくださいよ。どうして私だけが攻められないといけないんですか?」 「子供を産めないってのは、女に原因があるに決まってるでしょ」 「何ですかその思い込みは?」 「こっちはあんたが子供を産んでくれると思ったから、嫁として受け入れたのに。不妊のダメ嫁と知ってたら結婚なんて認めなかった。今まで私たちから騙し取った生活費とか、全てを今すぐに返せ」 「騙し取った?」 「子供を産むと言うから、生活の面倒を見てきたのよ」 「産むだなんて言ってないです。産みたくて、そのために頑張ってるとは言ってましたけどね」 「あんたは自分の役割も果たさないくせに、よくもぬくぬくと生活してたもんだ」 「私は妻としてやれるべきことはやってました。それなのに子供を産まなかったというだけで、全てがなかったことになるんですか?」 「当たり前でしょ。それが妻の仕事なんだから。後継ぎも産めない血管品は不要。出ていけ」 私は義母の言葉に呆然とした。7年間、私はこの家のために尽くしてきた。家事も、義母の世話も、何もかも。それなのに、子供を産めないというだけで「血管品」呼ばわりされるなんて。 「啓介が納得するわけないでしょ。私と啓介は気持ちが通じ合ってるの。きっとあっさりと認めてくれるわよ」 「とりあえず、話だけはしてみますよ」 「そう。それじゃあ話が終わったら、さっさと出ていく準備をしてね」 その日の夜、私は夫の啓介に話を持ちかけた。 「啓介、お母さんに離婚しろって言われたわ」 「はあ?なんだよ、急に」 「いきなり離婚届を投げつけられたのよ。子供を産めないなら離婚だってさ。ここ数年はずっとプレッシャーをかけられてたけど、いよいよ爆発したみたいね」 「そうか」 「あなたからお母さんにちゃんと注意してよ。こんなの私は許せないわ」 「母さんはずっと早く孫の顔が見たいと言ってたんだ」 「それは後継ぎが欲しいだけでしょ」 「そうだよ。うちはそういう家柄なんだ。俺は長男として子孫を残す義務がある」 「へえ、義務があるんだ。それについては別に否定しないけど、子供を産めないから離婚なんて、ひどいとは思わないの?」 「俺だって子供は欲しいんだよ」 「にしては、全然妊活に協力してくれないじゃない。私は1人でやれることを頑張ってるけど、あなたは何もしてない。それなのに『義務がある』とかよく言えるね」 「妊娠できないのはお前のせいだろうが。どうして俺が妊活なんてしないといけないんだ」 「夫婦で協力してやるものでしょ」 「俺の周りの友人たちはもっと早くに子供を産んでたのに。どうしてお前は妊娠しないんだよ」 「そんなのこっちが聞きたいわよ。私だって子供を早く欲しいって思ってるんだから。そのために産婦人科に通って不妊治療をやってるのよ」 「それでも産めないってことは、お前の体に原因があるってことだろう」 「そんなことないわよ」 「悪いが、俺もお前と結婚生活は続けられない。不妊の役立たずとは離婚だ」 私は啓介の言葉に、もう何も言えなかった。7年間、私はこの人のために尽くしてきた。それなのに、子供ができないというだけで、こんなにも簡単に切り捨てられるなんて。 「あなたも、子供が産めないから離婚するっていうこと?」 「そうだ。何の文句もないだろう」 「あるに決まってるでしょ。それにあんた、自分が離婚を切り出せる立場だって本気で思ってるの?」 「何がだよ」 「昔、私があんたを許したから結婚生活を続けられてるのを忘れたの?」 「まさかそんなことを言ってるのか?過去を引きずりやがって、虫唾が走る」 「開き直らないで。自分が何をしたか忘れたの?」 「今はそんなことは関係ない。とにかくお前とは離婚だ。今すぐ家から出ていけ」 「何よそれ」 私は荷物をまとめ始めた。こんな家、もう出ていってやる。義母も啓介も、私を「血管品」としか見ていなかったんだ。 … Read more

30 August 2026

「お姉ちゃんの旦那、温泉旅行満喫してるよ。奪っちゃってごめんね」…

「マミー、さっきの写真は何よ?」 「はあ?何が?楽しい思い出を共有しようと思っただけよ。」 姉のスマホに映っていたのは、何の変哲もない温泉旅行の写真。でも、そこに写っていたのは姉と、私の夫だった。 「どうしてあなたとあが一緒にいるの?しかも浴衣ってことは旅館に泊まってるの?」 「そうよ。お姉ちゃんの旦那と温泉旅行楽しんでます。奪っちゃってごめんね。彼と相性いいんだよね」 私は手が震えた。夫は「出張」と言って家を出たはずだ。その嘘が、妹の一言で粉々に砕けた。 「あんた、自分が何をしてるか分かってるの?」 「もちろん分かってるよ。でもしょうがないでしょ。私たちは相思相愛なんだから。その邪魔をするなんてダメだよ」 相思相愛。その言葉が、私の心臓をえぐるように刺さった。夫と私は、いったい何だったのか。 「私とあは夫婦なのよ」 「形だけでしょ?もし本当に愛し合っていたら、こんなことにはなってないわ」 姉は続ける。私が社会的な地位を使ってマウントを取ってくるから、夫が嫌になったんだと。確かに、姉はいつも私を見下していた。勉強でも仕事でも、何かにつけて「お姉ちゃんの方が上」と態度で示してきた。でも、まさか夫にまで手を出すなんて。 「どうしてこんなことをするの?」 「だから、私たちは愛し合ってるからだよ。お姉ちゃんの立場を分からせてあげないとなって思ったんだよ。愛されてもないのに夫婦を続けるなんて不幸でしょ?子供だっていないんだし。さっさと離婚届を用意しておいてね」 私は言葉を失った。妹にそこまで言われて、夫婦の形を引き裂かれる屈辱。そして、その後ろで何も言わない夫。 電話を切り、私は夫に直接電話をかけた。 「キラ、今どこにいるの?」 「どこって?それはもうお前に言ってあるだろ」 「あんたが出張に行ってないことは分かってるのよ。さっきマミから連絡があったの。あんたと仲むつまじい様子の写真が送られてきたわ」 「は?マミが?」 「そうよ。あなたと楽しく旅行をしてるって言ってた」 夫は動揺しながら言い訳を始めた。マミから「離婚してシングルマザーになったから話を聞いて欲しい」と相談された。兄として会っただけだ。そうしたら向こうから迫られて、ちょっとした遊びのつもりだった、と。 「ちょっとしたスパイスとしてさ」 「バカじゃないの?それで誰が納得するのよ」 私が激怒すると、夫はさらに信じられないことを言った。 「頼むよ。これ以上詰めるなって言われるようなことをやってるのはそっちでしょ。とりあえず、明後日の朝にチェックアウトだから、帰った時に話をしようぜ」 「ここまで言われてるのに不倫旅行は満喫しようってこと?」 「だってここの旅館、めちゃくちゃ高かったんだよ。それなりにいいところで前から泊まりたいって思ってたし。それを途中で帰るのはもったいないじゃん」 夫は平然と言ってのけた。私は怒りで手が震えた。 「だったらもう帰ってこなくていいよ。あなたがそういう態度なら、こっちもやることはやるから」 「ちょっと待て。勝手なことはするな。俺はマミとしっかり話をしないといけないんだ」 「そういえばマミはあなたと結婚するつもりみたいよ。そこでプロポーズでもすれば、きっと喜ぶわよ」 「いや、俺は別にそこまでの気持ちはない」 「だったらさっさと帰ってきなさいよ」 「頼む。俺たちに時間をくれ。旅行期間中は連絡はしてこないでくれ。俺は俺で混乱してるんだ。お前からプレッシャーをかけられると精神がおかしくなってしまう」 夫は自分のことばかり。私は絶望の中で電話を切った。 その5時間後。母から電話があった。 「ねえ、リサ大変なの。サトシがすごい高熱を出してうなされてるのよ」 サトシは私の息子だ。離婚してシングルマザーになった妹・マミの子供じゃない。私の大切な一人息子。 「ちょっと待って。どうしてサトシをお母さんが面倒見てるの?」 「マミから出張だから預かってくれって言われてたのよ」 「なんですって?」 私は血の気が引いた。マミは自分の楽しみのために、私の息子を母に預けて夫と不倫旅行に行っていたのだ。マミには連絡が取れなかった。電話をかけても、何度かけても、電源が切られていて一切出なかった。 「お母さん、とにかくサトシを見てて。私もすぐそっちに行くから」 私は急いで実家に向かった。しかし、着いた時にはもう遅かった。サトシは病院に運ばれたが、容体は急変し、その日の晩に亡くなった。 2日後、私は葬儀場にいた。涙も枯れ果てたような状態で、棺の中のサトシを見つめていた。そこへ、マミが現れた。 「お姉ちゃん、マジで鬱陶しいんだけど。なんであんなに着信履歴を残してたの?ヒステリックなのは勘弁してほしいわ」 私は信じられなかった。この状況で、この女は何を言っているんだ。 「なんで全然電話に出なかったの?」 「だって、2人っきりでいるのに邪魔されるの鬱陶しいなって。デジタルデトックスっていうの?おかげで頭がすっきりしてる感じだし」 「それで離婚届はもう書いた。早ければ明日にでも出してもらいたいんだけど」 マミは私の悲痛な表情を全く気にしていなかった。私は胸の内で叫ぶように言った。 「バカじゃないの?そんなことできるわけないでしょ。今はサトシの葬儀中よ」 「は?あんたにあれだけ連絡したのに全然出なくて。ちょっと意味がわからないわ。サトシの葬儀って何?意味わからないこと言わないで欲しいんだけど」 「サトシは昨日の晩に亡くなったの。それであんたに電話をしてたのよ」 … Read more

30 August 2026

結婚3周年記念のハワイ旅行を楽しみにしていたら、前日に夫がこう言ったんです。「母さんも行くから、今回はレナは遠慮してくれ。」チケットは最初から2枚しか取ってない。騙す気だったんです。でも、私は黙って引き下がりました。翌日、義母に「ハワイ楽しんできてね」と電話したら、「は?あんた何言ってるの?私は家でワイドショー見てるのよ!」って。え?じゃあ夫は誰とハワイに行ってるの?私はマイクに調べてもらっ…

「結婚3周年記念、ハワイに行こう。もちろん母さんも一緒にな。」 主人の元希が言い出したのは、いつものように旅行の計画を立て始めた時だった。結婚してから毎年、二人で記念旅行に行くのが恒例になっていたのに、今年は違った。 「なんでお母さんが来るの?」 「母さんが、自分たちだけずるいって泣いたんだよ。私も行きたいって。」 「泣いたって、また嘘泣きでしょ。」 「そんなこと言うなよ。俺の母さんだぞ。」 私はため息をついた。彼の母親は、これまで何度も大げさに言っては迷惑をかけてきた人だ。骨折したと言われて仕事を休んで駆けつけたら、ただの捻挫だったことだってある。それでいて、私に洗い物や風呂掃除をさせる。それが彼曰く「愛情表現」だという。 「今回は父孝行なんだよ。母さんにとって最初で最後のハワイかもしれないんだ。」 「そこまで言うなら、いいわよ。でも部屋は別にしてくださいね。」 「当たり前だよ。ありがとな。」 そう言って、手配は全部自分に任せろと彼は張り切っていた。 しかし旅行前日になって、彼が言い出した。 「レナ、体調悪いだろ。明日は家でゆっくりしてた方がいいよ。」 「は?めちゃくちゃ元気だけど。」 「今朝の顔色、土みたいな色してたぞ。」 「せっかくのハワイだから、顔が何色だろうが行くわよ。」 すると彼は、うつむきながら切り出した。 「正直に言う。今回は遠慮してほしい。」 「何それ?前日に言うこと?」 「母さんがどうしても二人で行きたいって言うんだ。」 何を馬鹿なことを言っているのかと思った。そこで私は気づいた。彼は私の分のチケットを取っていない。最初から私を行かせる気はなかったのだ。 「最初から騙すつもりだったの?」 「三人分取ろうとは思ったんだよ。でも決済画面見て、あんまりにも高くて…」 「二人分で我慢して、浮いたお金で母さんに何かしてあげたいんだろ?」 「そういうこと。分かってくれるか?」 「はいはい、ご立派ご立派。じゃあ、ここで永遠にさよならするけど、それでもいい?」 「な、なんで?」 「妻との約束を破るから。親孝行のためだったら、何をやっても許されると思ってる?」 彼は「この先の長い人生を歩んでいくのは俺たち二人なんだよ」と訴えたが、結局私が折れる形になった。彼が「今回が最後だから」と言うから、私は信じた。 次の日、義母に電話をかけた。 「お母さん、ハワイ楽しんできてくださいね。」 「は?何言ってるの?あんた、私をからかってるんじゃないでしょうね。」 「とぼけても無駄ですよ。私が引き下がったおかげでハワイに行けるんですから。」 義母は本気で怒り出した。 「私は家でワイドショーを見てるの!邪魔しないで!」 「本気で言ってます。ハワイに行くことを隠す必要ないじゃないですか。」 「あんたこそ、いい加減にしなさい!意味の分からないことばかり言うなら、うちの草むしりでもしてきなさい!」 嘘だと思った。義母は私が邪魔だから、わざと知らないふりをしているのだと。私は言われた通り、義母の家に行くことにした。 数時間後、義母の家で草むしりをしていた時、腰に激痛が走った。 「マイク、助けて。腰が痛い。」 「おい、どうしたんだ?何があった?」 このマイクという男は、夫の友人でありながら、私の父の知り合いでもある変わり者だ。日本全国を旅しては人に嫌がらせをするような、自由人だった。 「義理の母とハワイに行くから今回は我慢して欲しいって言われたの。」 「親孝行かよ。それで?」 「でも義母は日本にいるの。元希は嘘をついてる。」 「つまり、一人で行くつもりなのか?」 「そんなわけないでしょ。プールサイドで女といちゃいちゃしてるんだよ、きっと。」 私はマイクに、元希の泊まるホテルを調べてもらうよう頼んだ。彼は探偵もやっているらしい。 数時間後、マイクから連絡が来た。 「いたよ。女と一緒だ。」 「分かりきってたことじゃん。でも、数パーセントの希望くらいは持ってたのよ。」 「プールサイドでイチャイチャしてたぞ。」 「おちょくらないでよ。これでも一応ショック受けてるんだから。」 マイクは言った。 「人生はひつまぶしと同じだ。途中からだしをかけて味を変えるだろ?レナにとって今が味変の時だ。」 … Read more

30 August 2026

口座から100万円近く消えているのに気づき、夫を問い詰めました。「浮気してるのは知ってるのよ」と伝えると、夫は「ありえない」と否定し、さらに「お前にも原因がある。年を取ったじゃないか」と言い放ちました。そして、大学生の息子まで私のことを「寄生してる母さん」と罵ったのです。それでも私は耐えていました。でも、息子が浮気相手とデートしていたことを知った時、すべてがつながりました。「あの子は父さんの…

口座から100万円近く消えている。私は夫、章に問い詰めた。すると彼は探偵でも雇ったのかと言い放った。誰かを探しているのかと。 私は離婚の準備をしていると言った。財産分与はされても構わない。ただ慰謝料はもらう。そう伝えると、彼は何の話だときょとんとしている。 浮気してるのは知ってるのよ。そう言うと、彼はありえないと否定した。ホテルに行っているところを複数回確認している。彼は途中で体調が悪くなったと言い訳した。本当に具合が悪かったんだ。 それなら誰の友達なの?その人と話をさせて。彼は何もやましいことはないから話す必要はないと言った。ごまかすつもりなら離婚よ。私はそう告げた。 彼は、自分の稼ぎがなくなってどうやって暮らしていくつもりだと言ってきた。誰が?あなたとり太郎に決まってるだろうと。り太郎はまだ大学生なのに。学費はもう貯めてあるわ。卒業できればの話だけど。私はどうやって生きていこうが関係ない。 なぜそんな話になるんだと彼は怒り出した。気持ち悪いからもう一緒にいられない。浮気の1度や2度、別にいいだろう。彼はそんなことを言った。私は録音した音声を再生した。彼の鞄にボイスレコーダーを入れておいたの。彼はそれは盗聴だと言った。どうぞ訴えてください。その覚悟でやってるの。楽しい声がたくさん入ってたわ。 彼は謝った。許さない。でも、お前にも原因はあるだろうと言い出した。何?言ってみて。年を取ったじゃないか。あんたは取ってないの?20年前から何も変わってないなんて言える?男と女は違う。だから若い子に走ったのね。そうだ。私は離婚して素敵な人を見つけたい。これからは別々に生きましょう。 彼は提案してきた。お互い自由にしながら結婚生活を続けないかと。何のために?世間体とか子供のためとか。り太郎はもう成人してる。それに世間なんて気にしない。離婚となれば手続きが面倒だろう。届けを出すだけよ。 ふざけるな。一方的に終わるなんて許さない。浮気した分際で何言ってるの?もういいでしょう。お互いいい年なんだし。恋だの愛だのって年じゃない。外で恋してるくせに。 少し時間をちょうだい。実家に帰るわ。り太郎はどうするんだ。本人が来るというなら私は構わない。 後日、り太郎に電話をかけた。授業が終わったかと聞くと、うんと返ってきた。お母さん、しばらく実家に帰ることにしたから。なぜ?と聞く息子に、お父さんに聞いてと言った。まさか浮気してたとか?あなたももう20歳だから隠さなくてもいいわ。その通りよ。 息子はあっけらかんと言った。「はあ。親父やるじゃん。」そのくらいで怒るなよ。だせえな。私は何を言ってるの?と驚いた。男の甲斐性ってやつだろ?浮気もできない方がましだ。あなたお父さんの味方なの?そりゃそうだろう。力ある父さんの方が神だし。父さんが浮気したのは母さんがバカだからだろう。 本気で言ってる?専業主婦で寄生してる母さんのどこを尊敬できるの?と息子は言い放った。私が反抗期が長いのは、母さんがいつまでたっても説教臭くてだるいだけ。あんたが20過ぎてもしっかりしないからでしょ。そういうとこ、父さんみたいにほっといてくれたらいいのに。あの人は子育てなんてしてないじゃない。あのくらいでちょうどいいんだよ。 私はあきれた。よく言うわ。一人で何もできないくせに。息子はさらに続けた。次の奥さんが来るならそれでいいじゃん。母さんだって俺の面倒を見ずに済むんだからラッキーじゃん。いい年してまだ誰かに面倒を見てもらうつもりなの?だってまだ大学生だもん。ああ、そう。じゃあ好きにしなさい。はーい。 数日後、り太郎は父親と浮気相手の女性に会ったようだった。父さんと彼女の話をしていた。彼女は28歳で、綺麗な人らしい。父は「やっぱり男は若くて美人がいい。母さんみたいなおばさんと一生暮らすなんて罰ゲームだ」と言った。息子はそれに同意していた。私は実家でその話を聞いて、胸が張り裂けそうだった。 そして、り太郎は家に残ると言った。私は荷物をまとめて出ていくことにした。彼は「勝手にしろ」と言った。私が「り太郎は残る」と言うと、「色々と頼んだわね」と皮肉を言われた。私は「手のかかる子だったけど、愛情は伝わってると思ってたからショックだわ」と返した。彼は「お前は家族の誰からも必要とされてなかったってことだ」と言い放った。 私は「そうみたいね。もうどうでもいいわ」とだけ言って、家を出た。 数日後、浮気相手の那乃香が家に越してきたという噂を聞いた。まだ離婚も成立していないのに。り太郎に電話で伝えると、彼は「どっちみち離婚するんだし、慰謝料も請求されるんだから一緒じゃん」と言った。私は「だからってこんな裏切り、あんまりだわ」と訴えた。彼は「俺は俺がいいと思った方について行くだけだ」と言った。 私は腹が立って、「じゃあ残り2年分の学費の支払いはなしね」と言った。バイトでもするか、お父さんに頼みなさい。彼は「それは違うだろ。母さんが学費を出してたわけじゃない」と言った。私は「生活費を切り詰めて住宅ローンを払いながら貯蓄してきたの。離婚する以上、家と土地、そして預金は財産分与の対象よ」と説明した。あなたたちが今の家に住むなら、私は預金を渡すことにする。じゃあ家を売ってそのお金を半分くれない?そう言えば預金は返すわ。彼は「俺に言われても困るんだけど」と言った。大好きなお父さんに伝えておきなさい。 数時間後、章から電話がかかってきた。家の金を持って出ていくとは何事だと言われた。説明を聞いてないの?生活費の口座も空っぽじゃないか。もう月末だから引き落としがある。早く入金した方がいいわ。どうやればいい?くらい入れればいいんだ?いい年した大人がそんなことも知らないの?追い出された私が家計の心配をする気はないわ。 彼は新しい女性と住んでるんだろ?彼女に財布の管理をお願いしたらどう?まだ信用ならないから無理だと言った。顔と見た目だけで信用ゼロなのに、家に入れたの?すごいわね。お前が何もかも放り出すからいけないんだろ。り太郎の学費だってどうするんだよ。さあ、学資保険は小さい頃に入ってたけど、あんなもん受験費用と入学金、初年度の学費で消えたわ。残り3年分はしっかり貯めておいたの。じゃあそれを返せよ。り太郎はあなたを選んだのよ。責任を持って卒業させる義務はそっちにある。 彼は「あんまりだろ。それでも母親かよ」と言った。私は返した。「はい。嫁として育てて、反抗期でボロカスに言われて、夫からも都合のいい扱いされて、それでも家族を愛してたのに、あっさり捨てられた母親ですけど、何か。」 彼は謝った。悪かったよ。好きな女ができたんだから仕方ないだろう。お前にもいい人が現れるといいな。付け焼き刃のような言葉を言われても響かない。私はそう言って電話を切った。 後日、那乃香がり太郎に近づいてきたらしい。「私がママになって嬉しい?」と聞いてきた。り太郎は「まあそうっすね」と適当に返していた。彼女は章のことを「ヤっくん」と呼んでいた。どうして父と一緒になろうと思ったのかとり太郎が聞くと、彼女は「大人の余裕っていうか、毎日可愛いとか好きとか褒めてくれるし」と答えた。小さなスナックで働いていた時にママからきつく当たられて外で泣いていたら、ヤっくんが慰めてくれたらしい。「俺が助けるから、こんなに辛い仕事しなくていいよ」と言われたそうだ。 そして、彼女はり太郎にデートを申し込んだ。昼間は章が仕事でいないから、その間の相手をしてほしいと。り太郎が「無理です」と断ると、彼女は「なんで?ちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃん」と食い下がった。「そんなことしたら好きになっちゃうので」「私もそのつもりだよ」と。彼女はり太郎にキスを迫った。 り太郎は大学を休んで、那乃香とデートした。買い物と昼飯、そしてカラオケに行った。ホテルには行っていない。しかし、章は探偵に依頼していたらしく、2人がホテルに入る写真を掴んでいた。実際はカラオケ店が満員で、たまたま近くのホテルのラウンジで時間をつぶしただけだった。だが、その写真を見た章は激怒した。 「お前、父親の女に手を出すなんてよくできたな」と詰め寄った。り太郎は言い訳をしたが、信じてもらえなかった。「お前は出ていけ。学費も自分で稼げ。」り太郎は「息子より女を取るのかよ」と問いかけた。章は「当たり前だろ。お前のことなんて1ミリも可愛いと思ったことなんてねえよ」と言い放った。 り太郎は言い返した。「自分が若くて美人の新しい女を選んで、長年支えた妻を捨てたんだろ。俺を攻める資格なんてお前にはないぞ。」章は「分かってるよ。大学なんて辞めてしまえ。その程度の学歴なんてあってもなくても同じだ」と吐き捨てた。 り太郎は言った。「俺がどんな思いで受験したか知らないよな。俺を見てくれてたのは母さんだけだった。今更悔やんでも遅いんだよ。」そして、「もういいよ。世話になったね。さようなら」と言い残して家を出た。 数日後、那乃香も章のもとを去った。彼女はり太郎に「私、あの子と結婚したい」と言っていた。昼間ずっと一人だし、り太郎の方が話が合うし、家事にも飽きたし、ヤっくんは臭いし。彼女にとって章は「財布」でしかなかった。り太郎が彼女に手を出さなかったのが、逆に新鮮で嬉しかったのだと言う。 章はすべてを失った。妻も息子も若い女も。 私は実家で両親と過ごしていた。ある日、り太郎から電話がかかってきた。「俺も家を出たよ。というか追い出されたんだけど。とりあえず、父さんと浮気相手の再婚は阻止しておいた。」 私は混乱した。「どういうことなの?」と聞いた。彼は言った。「父さんの味方をするふりをしたんだ。敵を欺くには味方からって言うだろ?人芝居だった。母さんにはひどいこと言ってごめん。」 私は言葉を失った。彼は続けた。「俺さ、父さんが浮気してるの気づいてたんだよね。母さんが出ていって、父さんだけが幸せになるのはどう考えてもおかしいと思って、家に残ることにしたんだ。母さんが家に残っていたら、あの女の本性を暴くチャンスもなかっただろうから。」 私は「だったらそう言いなさいよ。そしたら母さんは出ていかなかったでしょう」と言った。彼は「俺が残る以上、母さんは俺を見捨てない。でも出ていった。だから、ひどいことを言って怒らせる必要があった。だとしても言いすぎたけど、ごめんなさい」と謝った。 私は「もういいのよ。子供の嘘も見抜けないなんて、母親失格だわ」と言った。彼は「その上学費払わないとか大人げないことして。あれはビビったね」と笑った。 「でも、もし誤解が解けなくて中退になってもよかったんだ。父さんさえ不幸になってくれれば、どうしてそこまで?」と私は問いかけた。彼は言った。「『ありがとう』とか『ごめんなさい』って、俺は教えられてきたよ。でも、母さんに無神経なことを言って傷つけたり、毎日遅くまで家のことをしてる母さんに、父さんが言葉をかけてるのを見たことがなかった。俺、子供の頃からずっとおかしいと思ってたんだ。」 私は「ああ、やっぱり子供はちゃんと見てるのね」と呟いた。彼は続けた。「でも次第に、俺も『ありがとう』すら言えなくなってた。恥ずかしいというか、照れるというか。言わなくても分かるだろうみたいな。反抗期が長引いたんじゃない。感謝してるのに口に出せない自分が嫌で、母さんと距離を取ろうとしてただけなんだよ。」 私は笑った。「あんたって怖いわね。お礼なんていいのよ。普通に喋ってくれればそれだけで良かったのに。とにかく、いろいろとごめん。」 「もういいから、会って話しましょう。じいちゃんとこまで来れる?直接言いたかったから、実は今もう向かってる。」「今日はたまたま焼き肉の予定なの。り太郎が来るならお肉買い足さなきゃね。」「え、一緒に食べていいの?」「当たり前でしょ。子供にご飯を食べさせない親がいる?」「ありがとう。大学は遠くなるけど通えるわね。」「辞めなくていいの?」「当たり前じゃない。こっちには金があんのよ。財産分与してもらったからね。ビールも買い足しておくわ。」 こうして、私は息子と再会した。あの反抗的だった息子は、別人のように変わっていた。素直で、まっすぐに感謝を伝えてくれる青年になっていた。 数日後、章が実家にやってきた。離婚を撤回してくれないかと言う。私は「寝言は寝て言って」と返した。「本気で言ってる。何もかも失った。支え続けてくれた妻も、息子も、若い女も。」「幸せな人が言うセリフじゃないわね。」「戻ってこい。償いはする。慰謝料も払う。今後家のことはできる限り手伝うつもりだ。」「具体策がゼロね。『できる限り』『つもり』。これのどこを信用すればいいのよ。」「頼むよ。俺はボロボロなんだ。」「愚痴を聞いてる暇はないのよ。午後からり太郎と出かける予定なの。」 「あ、あいつそっちにいるのか。許してやったってこと?」「まあ、そんなところね。」「だったら俺のことも許してくれよ。」「それは無理よ。り太郎は裏切ってないけど、あなたは私を傷つけただけじゃない。」「いや、あいつだってひどいこと言っただろう。」「あれは全部私のためだったの。私にひどいことを言って家から追い出して、自分は浮気相手の本性を見極めるために家に残ったのよ。」 「なんだそれ?あの女はり太郎を誘惑した。逆だろ?り太郎が誘ったんじゃないのか。」「あの子は那乃香さんとの会話を全て録音してたわ。ホテルに入ってから出てくるまでは、動画も回してたみたいよ。」「なんで?」「何もしてないことの証明が一番難しいからだって。確かに2時間カラオケして出てきたんでしょ?でも、あんな写真を見たら誰だって疑うわ。」「そもそも、その写真があること自体がおかしいと思わない?」「それはスナックのママが…あ、確かに変だな。なんでママが那乃香とり太郎を尾行するんだ?」 「尾行したのはママじゃなくて、スナックのお客さんが依頼した探偵だそうよ。那乃香は複数の客に結婚を匂わせてたの。それをママに怒られて泣いてたところを慰めたのが、あなたってわけ。」「なんでお前が知ってんだよ。」「ちょっと前にり太郎と飲みに行ってきたのよ。お店のママが落ち着くいい人でね。那乃香の本性を知るために、あえて近づいたの。」 章は絶句していた。「やっぱり俺は被害者じゃないか。」「そう思うなら訴えれば?もう私たちには関係ないから、勝手にどうぞ。」「いや、まだチャンスはあるよな。20年も家族やってきたんだぞ。絆があるだろう。」「息子のことを1ミリも可愛いと思ったことがないとか、散々ひどいことを言ったくせに、よく言うわ。」「だったらり太郎が俺に言ったことだって取り返しがつかない暴言だろ。」「そうね。あれは確かに傷ついただろう。俺もあいつも同じじゃないか。」「でも、あの子は昔から不器用でね。母の日カーネーションをくれたんだけど、その時に言った言葉が忘れられないの。『道に落ちてたからやるよ』って。たまたま拾ったんだと思うでしょ?違うの。買ってきたなんて恥ずかしくて言えないのよ。そういう紛らわしい嘘をつく子なの。私はそれをすっかり忘れて、あの子を信じなかった。」 「じゃあみんな悪いってことで、両成敗でいいな。」「なんかやたらと話に入ってこようとするのやめてくれる?あなただけは別なんだから。」「俺にはお前たちしかいないんだよ。家族だろ。」「あなたが選んでくれた弁護士さんが離婚届を持ってきてくれたから、先週出してるわ。もう他人よ。」「取り消しだ。あ、いや、再婚しよう。プロポーズするから受けてくれ。」「1億のダイヤをもらっても、あなたとは一緒になりません。」 その後、私は浮気の証拠を掴んでいたので、章と那乃香の両方に慰謝料を請求し、支払わせた。財産分与は、土地の価値が高騰していたこともあり、預金だけでは清算にならず、結局家と土地も売却することになった。章は住む場所まで失った。 章は那乃香に「今まで使ったお金を返せ」という、なんともせこい裁判を起こしたそうだ。当然取り返せるはずもなく、弁護士費用をどぶに捨てただけとなった。一方、那乃香には複数の男性がいた。全員に結婚を匂わせて生活費を引き出していた。被害にあった男性同士が探偵事務所を通じて繋がったことで、結婚詐欺紛いの手口が業界内で噂になった。那乃香は次の相手を探そうとあちこちの店を渡り歩いているが、り太郎曰く「言うほど美人ではなかった」とのことで、新しいカモ探しにも苦戦しているらしい。 私は今、実家で父と母、そして息子の4人で新しい暮らしを始めている。財産分与のおかげで生活費の心配もなく、り太郎と笑い合える毎日が久しぶりに戻った。夫の存在は、私にとってはよほど重荷だったのだろう。今は驚くほど心が軽い。不器用で反抗的だったり太郎は、別人のように変わり、素直でまっすぐに感謝を伝えてくれる立派な青年になった。この自慢の息子が社会に育つまで、あと少し。貴重な時間を大事に、1日1日を過ごしていこうと思う。

30 August 2026

「お父さんが息を引き取った」という母の知らせを受けた瞬間、私はただの子ではなくなった。葬儀の後、兄が突然、遺言書を見せてきた。「遺産は全部、俺のものだ。母さんはこの家から出て行け」。母は呆然としていた。確かに、あの遺言書は本物に見えた。でも、私は父の気持ちを知っていた。父は死の間際、何かを託したかったんだ。そして私は、ある決断をした。兄には何も言わずに。今、私の最初の一手が彼をどん底に突き落…

「ひ雪、お父さんが息を引き取ったわ。」 「そうか。間に合わなかったか。」 「なんとかあなたにも看取ってほしいってお医者さんたちは頑張ってくれたけど、無理だったみたい。」 「そっか。まあ、それはしょうがないな。俺も仕事があるし、なかなか対応は難しいよ。」 「お父さんもそんなことは気にしてないわ。しばらくあなたたちと一緒に暮らせただけで、幸せだったと思うから。」 「そうだな。とりあえず病院には向かうから。」 「うん。お願いね。それと、これから先のことを話し合っておこう。」 「ごめん。まだちょっとショックが大きくて。」 「そんなことを言ってる場合じゃないだろう。父さんのためにも、俺たちがしっかりしないと。」 「そうね。ごめんなさい。葬儀のこととかは母さんに任せるよ。俺もひろ子も、決まったら手伝いくらいはするから。」 「分かったわ。それが終わったら、遺産の話をちゃんとしような。」 「遺産?そんなのは別に話し合うことじゃないでしょ。私たちで分けるんだし。」 「やっぱり、母さんはそう思い込んでたんだな。」 「何それ?」 「父さんから俺は遺言書を預かってたんだ。大事に保管しておいてくれって言われてな。」 「どうしてあなたなの?私は何も聞いてないわ。」 「大事な遺言書だからね。心から信頼できる人に預けたんだよ。」 「ちょっと待って。私が何をするって言うのよ。お父さんが残した遺産を独り占めするつもりだったんじゃないか。」 「バカ言わないで。私がそんなことするわけないでしょ。」 「でも実際に父さんは俺に遺言書を預けてくれたんだ。その中身も、俺は教えてもらっている。」 「なんて書いてあるの?」 「遺産の全てを俺に相続させる、ってさ。」 「な、どうしてお父さんはそんなことを?」 「これが父さんの正直な気持ちだったってことだろ。今まで散々父さんを食い物にしていい暮らしをしてきたんだから。遺産くらいは俺たちに渡してくれよ。」 「そんなことしてないわ。私はお父さんと2人で支え合ってやってきたのに。」 「そう思い込んでたのは母さんだけってことだ。」 「嘘よ。」 「とりあえず葬儀だけはちゃんとやってくれよ。遺産がもらえないからって適当にするなんて許されないからな。」 「そんなこと言われても。」 「金で動くような人間にはなるなよ。」 「お父さんをしっかりと天国に送り出したいとは思ってる。だから葬儀はちゃんとやるわ。でも遺言書のことについては、またゆっくりと話をさせてもらうから。」 「金に執着するなよ。」 「お金じゃないわ。気持ちの話をしてるのよ。」 30分後。 「藤田さん、お久しぶりです。実はつい先ほど、夫が天国へと旅立ちました。」 「え、達彦さんが入院をしているとは聞いてたんですが。」 「生前、夫と仲良くしてくれて、本当にありがとうございました。」 「いえ、それはこちらのセリフですよ。普段の私にも達彦さんは優しく接してくれました。当時引っ越してきたばかりで知り合いのいない私には、達彦さんの存在はとても大きかったんです。本当にこの度はご愁傷様でした。」 「正直、まだショックから立ち直れてない状態なんです。色々と、知りたくもないことを知ってしまったので。」 「そうなんですか。」 「はい。これは夫婦のことなので、もちろん深く聞いたりはしません。ただ、これだけは伝えておきます。達彦さんは、いついかなる時も奥様に対して感謝の気持ちを持っていましたよ。」 「本当でしょうか?私はもう、夫の気持ちが分からないです。」 「それは本当です。私の前では、話すたびに奥様の話をされていましたし。」 「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。実は、藤田さんに連絡したのは、夫からの要望だったんです。」 「そうだったんですか。」 「あの世に言った後のことは、藤田さんに任せておけばいいから、と。」 「なるほど。そういうことだったんですね。」 「奥様は、聞いてらっしゃらなかったのかな?」 「何でしょうか?」 「10年前に達彦さんが、今回とはまた別の大病を患われたことは覚えてますか?」 「もちろんです。あの時も私は夫との別れを覚悟しました。ただ、手術がうまくいって回復したんです。だからこそ、今回もと信じていたんですが。」 「心中お察しします。ただ、その時に達彦さんから、あるものを預かっていたんです。」 「あるもの?」 「おそらく、そのことを達彦さんは言いたかったのでしょう。」 「それって何ですか?」 … Read more

30 August 2026

「実家が農家のお前と結婚とか、親が認めるわけないと思うんだよね」—…

「俺と結婚したいよな?」 彼が急にそんなことを言い出したのは、いつものように二人で食事をしている時だった。 「へ?何それ、もしかしてプロポーズ?冗談でしょ?」 「するなら真面目にしてほしい。俺は結婚したいと思うけどさ。うちの母さんが何て言うかなって思ってさ」 「まだお会いしたことないけど、そんなに厳しい方なの?」 「どうかな。リノンち農家だよな?」 「うん、そうだよ」 「実家が農家のお前と結婚とか、親が認めるわけないと思うんだよね」 私は箸を止めた。 「えっと、ごめん。意味が分からないんだけど」 「あー、簡単に言うと、家柄が違うっていうか」 「はい?」 「うちの母親は社長じゃん。だから結婚相手の家柄には厳しいんだよね」 「そう言われても、うちが農家なことはどうしようもない」 「うん、分かってる。だから母さんに認められたら結婚してやるよ。来週時間作ってもらうから、親連れて来い」 その言い方に、私は冷めた気持ちになるのを感じた。 「いや、その言い方も引っかかるし。別に無理して結婚の許可をいただかなくても大丈夫ですけど」 「はあ?」 「今ので将来が見えた。私はあなたたち家族から、今後もずっと農家の娘だと見下されるんだよね。そんな結婚はしたくないの」 「何言ってんの?俺ら何年付き合ってきたと思ってる?」 「四年。だから余計にがっかりしてる」 「なんでだよ!どこでそうなった?」 「それに気づかないところもちょっと無理」 「はあ…。親を連れてきて挨拶すれば、結婚の障害はなくなるんだぞ」 「もしそちらのお母さんが認めなかったら?」 「それは…」 「そもそも農家の娘との結婚は認めないんでしょ?だったらうちの親を連れて行って、わざわざ嫌な思いをさせたくない」 「いや、それはさ。たとえ農家でも、小綺麗にしてたり、いい時計つけてたりしたら、母さんも見直すと思うんだよね」 「何それ?持ち物で判断するってこと?」 「悪いけど、そんなもので判断されるのは嫌」 「持ってないなら、俺の時計貸してやるよ」 「時計一つで決まる結婚なら、しなくていいよ」 彼はようやく自分が失言を重ねていることに気づいたようだった。 「分かった。謝る。俺が悪かった。調子に乗りすぎたかもしれない」 「もういいよ」 「いや、だめだ。確かにリノの言う通りだよ。親なんて関係ないよな。俺らの気持ちが大事なのに」 「本当にそう思ってる?」 「もちろんだよ。どうしてもリノと結婚したいんだ。でもそのためには、ご両親とうちの親を合わせてほしい」 「私、まだプロポーズもされてないんだけど」 「それはおいおいちゃんとやるから。こんなことで今、二人の関係が終わるのは嫌だ」 「そこまで言ってくれるなら…分かった」 「本当?」 「父と母に聞いてみる」 「ありがとう。俺も母さんにちゃんと話しておくから」 一週間後、私たちは彼の実家を訪ねた。 応接間に通されると、彼の母親である明美さんは、最初から私たち家族を値踏みするような目を向けていた。 「あなた、よくもあんな田舎くさい父親を我が家に連れてこれたわね」 私は唇を噛んだ。父は緊張しながらも、農家としての誇りを持って挨拶をした。それなのに。 「お母さん、昨日はお時間をいただきありがとうございました」 「まだあんたの母になったわけじゃないの。気安く呼ばないでほしいわ」 「…すみません」 「いかにも農家の親父って感じだったわね。母親の方も、見すぼらしいことこの上ないって感じ」 そして彼女は笑った。 「底辺一家とか笑えるわ」 私は両親を見た。父は俯き、母は困ったような顔をしていた。タイガは何も言わなかった。 … Read more

30 August 2026

妊娠三十五週の私に、義姉は三歳以下の男の子三人を玄関に置き去りにしていった。「彼氏とデートだから」と言って。医者からは切迫早産で絶対安静と言われているのに、夫は「妊娠は病気じゃない」と笑い、パチンコに消えた。ある日、出血して倒れた私。義姉に電話すると、「それじゃ私が迎えに行けないから、あなたがなんとかしてよ」と逆ギレされた。でも私にはもうどうすることもできなかった。そして気づいた。この家族は…

「本当に無理です。もう子供たちの面倒は見られません」 私はそう言って、義姉のまい花さんからの連絡を断った。妊娠三十五週。医師からは切迫早産の恐れがあるから絶対に安静にするようにと言われている。なのに義姉は、三歳以下の男の子三人を私に押し付けて、自分は彼氏とデートに出かける。 「ちょっと、何よ。私の言うことが聞けないわけ?」 玄関に子供たちを置き去りにされたのは、三回目だった。最初は一時間だけと言われて引き受けた。でも次第に時間は延びて、今では半日以上預かることが当たり前になっている。お気に入りのマグカップは割られ、テレビも壊された。泥だらけで家に上がり込まれて、掃除は大掃除並みの重労働だ。 「妊婦の体調に個人差があるのは分かってます。でも私の場合は本当に危ないんです。子宮収縮抑制剤も飲んでます」 「かすみちゃんが気にしすぎなんじゃない? 神経質な人は座りも重いらしいよ。相性が悪いのもそのせいなんじゃない?」 同じ女性なのに、まったく理解してもらえなかった。 夫のまさきはパチンコばかりに行っている。義姉の子供たちを押し付けられたと連絡しても、「今やっといい台を見つけたところなんだ」と電話を切られる。義母に頼んで説教してもらっても、「当たりが出ちゃったんで弾出し尽くしてから帰りますね」と言って、その日の夜まで帰ってこない。 「お前は専業主婦だろ。俺の稼ぎで生きてるんだから、家事くらいちゃんとやれよ」 「切迫の診断をもらってるの。医者から絶対安静って言われてるの」 「妊娠は生理現象であって病気じゃないんだぞ。俺の母さんも妊娠中は普通に畑仕事してた」 そんな会話を繰り返すうちに、夫はだんだん態度を変えていった。 「あのな、お前は俺の収入で食ってるんだ。出産費用を出すのは俺なんだぞ。あまり俺やみんなを困らせるようなら、金は出せないからな」 ある日、義姉が私の実家に子供たちを置き去りにした。母は高齢で足も悪い。それでもインターホンを連打されて、出てみたら子供たちがいたという。結局、私が実家まで迎えに行って、また面倒を見ることになった。 「この件は児童相談所に相談させてもらいますからね」 そう伝えても、義姉は「あ、彼氏が来たからそろそろ行かなきゃ」と言って、海にドライブデートに出かけた。 三時間後、私は倒れた。 出血があり、病院に行くと子宮が四センチも開いていた。まだ三十五週。切迫早産で即入院となった。義母が病院に来てくれて、義姉のところに子供たちを迎えに行くように夫に電話をしてくれた。しかし夫は「今日はもう無理だ」と断った。義母は児童相談所に連絡すると告げた。 夫は義姉に電話して、自分が行く代わりに義姉が迎えに行けと言った。義姉は「私、夜まで帰るつもりないよ。なんなら彼の家に泊まりたい」と言って、結局誰も子供たちを迎えに行かなかった。 夕方、児童相談所が子供たちを保護した。義母の報告を受けた夫は「姉に伝えておきます」と冷たく言った。 翌日、義姉が病院に来た。 「子供たちを返してくれないのよ。あんたの方から事情を説明してよ」 「説明した結果です。安全確認が終わるまで十日間ほど保護されることになりました」 「冗談じゃないわよ! 実家にも連絡されるって言われたんだからね。うちの親、めっちゃ厳しいのよ」 「それは大変でしたね。十日間は面倒を見なくていいので、私は楽になりましたけど」 そう言うと、義姉は怒り狂って帰っていった。二時間後、義母から連絡があった。 「まい花さん、逮捕されたらしいわよ。児童相談所で暴れて、職員や警官にまで危害を加えたんだって」 その日、夫は病院に見舞いにも来なかった。家に戻ると、夫は私が退院していないことなど気にもせず、家事をしない私を責めた。 「俺の身の回りの世話もできないのか。主婦失格だな。何もしてないのに体調崩して入院とか、いい迷惑だよ」 「そういうまさこそ、妻として私のお腹の子の心配はしてくれないの?」 「稼いでくるのが男の仕事だ。心配なんかしてる暇はない」 「分かった。じゃあ、陣痛が来ても子供が生まれても、もうあなたには何も報告しない」 「そうしてくれ。その方が仕事とパチンコに集中できて助かる」 一週間後、なんとか退院した。義姉も拘置所から出てきたようで、また私の病院に電話をかけてきた。 「まだ子供たちを返してくれないんだけど。このままじゃ手当がもらえないじゃない」 「児童手当や養育費は、まい花さんが面倒を見ないなら不要なお金ですよ」 「何言ってるの! いるに決まってるでしょ。もらえないと彼氏と連絡を取るスマホ代がなくなるのよ!」 「子供のためのお金ですよ。どうして自分のために使えるんですか?」 「ちゃんと育ててる母親へのお小遣いでしょうが! それなのに勝手に実家に連絡して、そっちに引き渡しが決まったって、ひどいと思わない?」 「思いません。むしろ子供たちを見てくれる人が見つかって安心しました。子供たちは『パパなんていらないからママと一緒にいたい』って言ってましたよ。まい花さんに母親を名乗る資格はありません」 「待って! これからは子供たちに向き合うから! だから返してください!」 電話を切ると、夫からの連絡も途絶えた。実家に戻ると、両親が心配そうな顔で出迎えてくれた。数日後、私の母が病院セットを取りに夫の家へ行ったときのこと。そこには見知らぬ女がいた。 「まさきの彼女です」 母はその会話を録音していた。彼女と夫がいつから付き合っていたのか、どこで出会ったのか。そしてトイレやゴミ箱の中に残されていたものも、証拠として持ち帰った。 夫は問い詰められて、あっさり認めた。 「かすみが家を出たのを機に、家事ができない女だったんだよ。かすみには家政婦として帰ってきてほしかった」 「そうなんだ。このことは弁護士に相談してるから、そのつもりでいてね」 「証拠がないと弁護士は動かないぞ」 「大丈夫。お母さんが録音してくれたから。浮気のふりをしてゴミ箱の中も片付けてくれたよ」 … Read more

30 August 2026

「夫が突然、兄嫁との子供を妊娠したから離婚してくれって言ってきたの。しかも笑顔で『運命だから仕方ない』って。子供は三人もいるのに、養育費は1.5人分でいいって言われた瞬間、この人とは本当に終わりだと思った。でも、私がお兄さんに話を聞きに行ったら、夫は全く違うことを口にしていて………

「兄嫁が俺の子供を妊娠したから、離婚してくれ。」  夫の言葉に、私はしばらく固まっていた。何を言われたのか、一瞬理解が追いつかなかった。 「……意味がわからない。ちゃんと説明して」 「そのまんまの意味だよ。俺はあの人とそういう関係だったんだ」  あの人、というのは夫の兄嫁、よう子さんのことだ。つまり、夫は兄の妻と浮気をし、その相手が妊娠したと言う。開いた口がふさがらない思いで、私は夫を見つめた。 「運命だったんだ。俺は責任を取る男だし、ほうっておけないだろう。だから離婚してくれ」  あっけらかんとそんなことを言う夫に、怒りよりも先に呆れが来た。私は三人の子供を産み、家庭を支えてきた。それなのに、この人は何を言っているのだろう。 「じゃあ、お兄さんはこのことを知ってるの?」 「今から話しに行くところだ」 「うちの子供たちはどうなるの?」 「それはお前に任せた」 「三人もいるのよ。その責任はないの?」 「だからそれはお前がやってくれ」  私は目の前の男が別人のように見えた。どこでどう間違えて、こんなふうに育ってしまったのか。浮気をして、相手を妊娠させて、その責任を取るという。それならば、今までの家族への責任はどうなるというのか。 「とにかく、三人分の養育費は払ってもらうから」 「はあ。1. 5人分にしろよ」 「そんなことも考えずに浮気して子供を作ったの?」 「お前は人と愛し合う時に、そんなこと考えるか?」 「そもそもそんなことはしない。本物の愛ってものを知らないんだな。哀れなやつだよ」  勝手に言っていなさい。私は絶対に逃がさないから。  その二時間後、私は義兄のもとを訪れた。夫がすでに来ているはずだった。しかし、義兄は言った。 「夫?弟なら楽しく飲んで、さっき帰ったところだよ」 「……え?」 「うちの妻が妊娠してさ、そのお祝いに来てくれたんだよ」  妊娠、という言葉に私は反応した。義兄は続ける。 「ああ、もう知ってたんだ。まあ、あみちゃんは三人も産んでるからね。実は妻がそれで結構焦ってたんだよ。俺は比べる必要はないって言ってたんだけど、女性ってなかなかそうはいかないらしくて。不妊治療を頑張った甲斐があって、無事父親になれそうだよ」 「……おめでとうございます」 「ありがとう。今日はちょっと飲みすぎちゃったから、また落ち着いたら遊びに来てよ」  何がどうなっているのか、さっぱりわからなかった。夫は自分の子だと言った。しかし義兄は、自分の子だと喜んでいる。夫は義兄に本当のことを言っていない。 「おい、何がどうなってるのよ。お兄さんと話したら、全然違うこと言ってるんだけど」 「なんで兄貴に連絡するんだよ。余計なことすんな」 「裏切られた直後に、話を聞きに行くのは当然でしょ。なんでお兄さんに本当のことを言ってないの?私には堂々と言ったくせに」 「俺だって驚いたんだよ。本当のことを言おうと思ったのに、兄貴が自分の子が生まれるって喜んでて、適当に話を合わせるしかなかったんだ」 「お姉さんは何を考えてるの?」 「分からない。あみから聞いてくれないか?」 「は?なんで私が間に入らないといけないわけ?しかも、私を裏切った相手だよね」 「まあそうなんだけど、怖いじゃん。俺との子ができたって喜んでたのに、いざ蓋を開けてみたら兄貴との子だってことになってて。頼む。こっちは慰謝料も払う覚悟はあるんだ。それほど本気なんだよ」 「なんで私があなたの不倫のお手伝いをしないといけないのよ」 「お前だって真相が知りたいだろ。お姉さんに文句の一つも言ってやりたいだろ」  それは確かにそうだった。私は夫のために動くのではなく、自分と義兄のために動くことにした。  翌日、私はよう子さんに会いに行った。妊娠おめでとうございます、と伝えると、彼女は嬉しそうに頷いた。 「ありがとう。やっと授かれたわ」 「……誰の子なんですか?」 「夫に決まってるじゃない。ちょっと、いきなり失礼よ」 「まさは自分の子だと言っています」 「はあ?どうしてそうなるの?」 「運命の人だから責任を取るって、随分張り切ってましたよ」 「ちょっと待ってよ。絶対にありえないわ」  よう子さんは、確かに以前から夫の視線や態度には気づいていたが、それに応じるようなことはなかったと言う。 「それしか考えられない。私は夫を愛してるし、裏切ることはないもの」 「でもおかしいと思いませんか?義理の姉を好きになったとかならまだ分かります。でも妊娠させたって言ったんですよ」 「私に言われても困るわ。身に覚えがないのに」 「昨日、まさがそちらにお邪魔したのはなぜですか?私には二人でお兄さんに打ち明けるためだって言ってましたけど」 「突然来たのよ。夫はすでに妊娠のことを知っててワインを開けてたから、結構酔ってたわね。まさ君の顔を見るなり『俺もパパになるぞ』って一緒に乾杯し始めたの」 … Read more

29 August 2026